検察官
1 あなたは,平成10年ころに被告人と別れましたね。
はい。以前に京都に住んでいて,被告人と交際していましたが,その後別れました。
2 その被告人から突然電話があった日を覚えていますか
今年の7月15日ころの夜だったと思います
3 どういう内容でしたか
つきあっている人がいたけど,振られた。会社の役員の娘に奪われた。その女の人を殺してやりたい,と言っていました。
4 あなたは,それに対して,何か言いましたか。
お前にはできんから,俺がやってやる,といいました。
5 どういうつもりでそう言ったんですか
軽い冗談のつもりでした。
6 被告人は本気でしたか
それはわかりません。
7 その後どうなりましたか
またその翌日の夜に被告人から電話してきて,どうしても彼氏の態度にむかつく,やはり相手の女をやってくれと言ってきました。今度は相当真剣な雰囲気でした。
8 それで,あなたは,どう言ったのですか。
なんで,女の方をやるんや。男の方をやらないんか,と聞きました。。
9 そしたら,被告人はどう言っていましたか。
何でも,男の苦しむ姿が見たいとか何とか言っていました。
10 女をやってくれとの頼みに,あなたはどう答えたんですか。
メリットはなんや。俺と一緒になってくれるんならやってやるというようなことを言いました。
11 被告人はなんと言いましたか。
いいよ,と言ってました。それで誓約書を書いてくれと言ったら,そこまではしなくていいやろと言われました。
12 あなたはどんな気持ちになりましたか。
被告人と一緒になれるなら,なんでもやってやろうという気持ちになり,久保さんを殺すことを本気で考えるようになりました。
13 その後あなたは京都に行きましたか
美智子の気持ちを確かめたいという気持ちや下見の積もりもあって,3,4回は出かけました。美智子からしつこく催促されるうちに,気持ちもだんだんすさんできました。そして,8月10日ころに勤務先の上司とけんかし,どうでもいいやという気持ちになって仕事を辞めてしまいました。そして,無性に美智子に会いたくなって,京都に出て来て,それからずっと自分の車の中で寝泊まりしていました。そして,毎日のように美智子と会っていました。
14 催促というのは,どんなことですか。
美智子は,会うたびに,久保さんを殺害することを,いつやってくれるのか。まだなのか,いつになったらやってくれるの,などとしつこく催促されたのです。
15 京都で被告人と性交渉はありましたか
いつもキスやペッティングはしていましたが,セックスはいやがっていたのでしていません。
16 8月10日ころに被告人と会ったとき,ホテルで小刀で脅して関係を求めたことはあったんですか
いつも早く殺してくれ,とうるさく言う割には,自分の言うことは全く聞いてくれないので,ついかっとなって小刀で脅してセックスしようとしましたが,美智子の首筋に刃が当たって,少し血がでたので,驚いてやめました。
17 あなたは,久保さんを殺害するために,どんな準備をしましたか
美智子と一緒に久保さんの住所を確認しに行き,その後は,ひとりで,久保さんが出でくるのを待ち伏せして後をつけたりもしましたが,なかなかできませんでした。美智子の約束ももうひとつ信用できませんでしたから,ためらいもありました。
18 今回使った切り出し小刀はどうして手に入れたんですか
あれは護身用にいつも車に積んでいるやつです。
19 あなたが,いよいよやろうと決意したのはいつ頃ですか
犯行の前の日くらいになって,金もなく,毎日車の中で寝泊まりし,食事もろくにできない状態で気持ちがすさんできていました。一方で,美智子からは,会うたびに,早うやってくれ,早うやってくれと催促されるし,ノイローゼのような状態になっていました。それで,もう自分には美智子しかいない,美智子を失ったらどうなるか分からないという気分になり,明日は必ずやろうと思いました。
20 8月15日に久保さんを刺してしまった訳ですね。
はい。
21 その後あなたは自首したのですか
神戸までいったん逃げ帰りましたが,やはり怖くなって京都に戻って警察に 出頭しました
22 はじめのうち被告人のことを言わなかったのはなぜですか
何とかかばいたいという気持ちがあったのですが,そのうち嘘発見器にかける とかいわれてやはり嘘は通らないと思って本当のことを話しました。
23 被告人は,本気で殺すことを頼んでいなかったと弁解するようですが
それは嘘だと思います。会うたびに殺してくれ,やってくれという話でしたしこれは絶対本気だと思いました。住所や人相を教えてくれましたし,やってくれればキスやペッティング以上のこともやらせるという感じでした。まるで,体をえさに私を操っているようでした。
24 主尋問終わります。
弁護人
1 貴方は,若い頃,暴力団に所属したことがありましたか。
はい,若気の至りで,しばらく組の見習いのようなことしました。しかし,数年で,あの世界が嫌になり,組を辞めさせて貰い,その後は,トラック運転手として,堅気の生活をしてきました。
2 平成10年ころ,被告人と別れた原因は何ですか。
被告人に振られた感じです。私が少し乱暴だったのが悪かったのです。でも,被告人が本当に好きでした。被告人を思う気持ちに偽りはありませんでした。
3 あなたは,今回京都に出てきて被告人と会ったとき,首を絞めたり,小刀で脅した ことが何回かありますね。
2,3回はあります。あんまり身勝手なので腹が立って。
4 身勝手というのは?,
久保さんをやってくれ,やってくれというばかりで,自分のいうことはちっとも聞いてくれないからです。
5 自分のいうこととは?
私がセックスを求めても,応じてくれないのです。
6 あなたが,被告人にセックスを求めたとき,被告人は,どう言っていましたか。
あの人をやってくれたら何でもしてあげる,というようなことを言いました。
7 あなたがセックスを求めるときに,被告人は,「今はだめ,久保さんをやってくれてから」という言い方,つまり,セックスを断る言葉として,殺害のことを持ち出していたのではないですか。,
そういう場面もありましたが,セックスと関係ない場面でも,たとえば,電話でも,殺害を催促されていました。
8 その電話での催促というのは,いつのことですか。
私が,神戸の仕事を辞めて京都に出てくるちょっと前くらいです。
9 被告人があなたに催促したというのは,その電話の時以外は,あなたが彼女の身体を求め,セックスを要求したときと聞いていいですか。
ええ,まあ,だいたい・・・
10 被告人はあなたが好きな様子でしたか
私に,振られた悩みを打ちあけてくれ,大事な頼み事をしたくらいですから,それなりの好意はもってくれていたと思います。もちろん,時々,乱暴になる点は,嫌っていたかもしれませんが・・・。
裁判官
1 実行したら本当に一緒になれると思っていたんですか
はい,私がこれだけ思っているのですから,彼女はその思いに答えてくれると思ってました。私は,被告人がどうしようもなく好きでした。それで,被告人の方が,私を好きであろうが嫌いであろうが,ともかく一緒になってくれればいいという気持ちだったんです。
2 あなたは,被告人の歓心を買うため,つまり被告人と一緒になりたいために,あなたの方で計画を積極的に進めたんではないですか
それはありません。会うたびに彼女の方から早くやってくれと言われてました。その催促で,私自身ノイローゼのようになっていたのです。 |