被告人質問基本部分

弁護人

 あなたは,今度の裁判で山田君と共謀して久保さんを殺そうとして未遂に終わったという罪で起訴されていますが,それはわかっていますね。

はい

 この事件について,今どのように考えていますか。

後先も考えずにとんでないことをしたと反省しております。久保さんにはとりかえしのつかない,大変申し訳ないことをしたと思っています。

 山田君に対してはどうですか

山田君を私が巻き込んだ結果になり,やはり申し訳ないと思っています。ただ・・・・

 ただ,何ですか

はじめは私が言い出したことですが,そのうち山田君がものすごくしつこく私の身体を求めてくるものですから,それが怖くて・・・

 山田君とは,以前に相当深くつきあっていたのではないですか。 

はい,数年前に,彼が京都にいた頃,交際していましたが,山田君は,普段はおとなしいんですが,何かあると,人が変わったように乱暴になるところがあるんです。私はそれに耐えきれませんでした。嫌になって逃げるようにして別れました。

 そんな山田君にどうして電話なんかする気になったのですか。

私は中村さんに捨てられました。そんな私の悔しい気持ちが,以前に私が捨てた山田君なら,きっと分かってくれる,慰めてくれるという甘えた思いがありました。それに・・・,乱暴な山田君なら,中村さんに復讐をしてくれるかも知れないという期待もあったかもしれません。

 その久しぶりに電話をしたのが,7月15日の夜ですか。

はい。

 その電話で,あなたは,山田君にどんなことを話したのですか。

中村さんに捨てられたこと,妊娠させられたこともある,その中村さんが,上司の娘さんと結婚することになった,そんな悔しい思いを一気にしゃべりました。

 その時,あなたは,山田君に何かを頼んだのですか。

頼んだというのではないのですが,久保さんを殺してやりたいというような気持ちはしゃべったと思います。

10 そうした電話の話に対して,山田君はどんなことを言ったのですか。 

大変同情してくれました。そして,久保さんを殺してやるから,俺と一緒になろうと言いました。

11 それに対して,あなたはどう答えていたんですか

その時は,殺すと言うのは,お互いそれほど本気ではなかったので,特に,それ以上の話はなかったように思います。

12 その時は気持ちをぶちまけて気が済んだということですか。

はい

13 その翌日の16日に中村さんと会っていますね

はい,私ともう一度やり直して,と頼んだんですが,とても冷たい態度でした。悔しくて悔しくて,涙が出てとまりませんでした。

14 その7月16日の夜も山田君に電話して,また頼んでいませんか

はい。感情が高ぶって,むかついていて,また「久保さんを殺して」と言いました。

15 あなたのその時の気持ちは,本気でしたか。

多分,本気だったと思います。そのころは,中村さんや久保さんに対して,許せない,殺してやりたいというくらいの悔しい思いを持っていましたので。

16 山田君は何と言ってましたか

大変同情してくれました。そして,俺が久保さんをやってやると言いました。

16−2
その電話の時,山田君が「やった場合のメリットは何や」と言っていませんでしたか。

はい,そんなことを言ってました。山田君の望みは,私にもう一度よりを戻してくれということだと分かっていましたので,私は,やってくれたら,望み通りになるというような期待を持たせることを言ったと思います。

17 そのうち山田君が京都に来ましたね

はい。7月19日ころ,車で京都に出てきたので,夜,仕事が終わった後,待ち合わせをしました。

18 その日はどうしましたか

久保さんの家を見に行こうということになって,彼の車で,地図で捜しながら,久保さんの家の前まで行きました。その後,車の中で,彼からしゃにむに体を求められました。私の方は,山田君に対してそんな気持ちにはなれませんでしたので,強くそれは拒みました。山田君は変わっていないな,といやな気分になりました。

19 山田君は,あなたの体を求めるとき,「メリット先にくれ」というような言い方をしたのですか。

はい,いつもそんな言い方です。山田君は,セックスに飢えた獣のように会う度にいつも私の体を求めてきました。私としては,私が頼み事をして,それで彼が京都に出てきてくれたので,余り冷たい態度もとれず,ペッティングくらいは我慢しましたが,最後の線は,絶対に許しませんでした。

20 その後は,7月24日ころ,山田君が2回目に京都に出てきましたね。

はい。

21 その日は,どんなことがありましたか。

その日は,私を車に乗せると,すぐにホテルに直行し,無理矢理,体を求めてきました。キスや胸をさわることは仕方なく許しました。

22 それでも,あなたは,その日も,山田君に久保さんを殺害することを催促するようなことを言っていますね。

はい

23 どんな言い方をしたのですか。

山田君,本当にやってくれるんやろね。というような言い方だったと思います。

24 それも本気だったのですか。

当時は,本気だったような気がします。ただ,山田君がいつも余りにも強引に私の体を求めてくるのが,嫌になっていました。中村さんや久保さんへの憎しみよりも,だんだんと,山田君のことがうっとおしくなってきていたように思います。

25 貴方は,それから数日後の7月27日ころ,お祖母さんのお葬式で,宮崎に行って,何日間が滞在していますね。

はい,8月の2日まで,宮崎の叔父の家にいました。

26 そのころ,何か気持ちの変化がありましたか。

気分転換になったのだろうと思います。中村さんや久保さんが憎いという気持ちが大部薄れてきました。また,久保さんを殺しても何にもならない,というような気持ちにもなってきました。

27 それでも,あなたは,その後の8月4日ころに,また,神戸の山田君に電話していますね。

はい。確かしていると思います。

28 その日の電話では,山田君にどんなことを話したのですか。久保さんを殺すことを催促したのではないですか。

その日の電話のことは,内容はよく覚えていないのですが,宮崎から帰ってからしばらくして,会社の中で久しぶりに中村さんの後姿を見かけて,その自信を持った歩きぶりに,またむかむかした気持ちになった日がありました。それがその日で,うっぷん晴らし的なことを山田君に言ったかもしれません。

29 その次の5日くらいに,山田君がまた京都に出てきましたね。

はい,久しぶりに会いました。その日も,私を車に乗せると,すぐ,いつも車を停めて話しをしていた橋のたもとまで連れて行き,その車の中で,有無を言わさず,体を求めてきました。

30 あなたは,山田君のそのような行動に接して,どのような気持ちになりましたか。

はい。どうしようもない,虫酸の走るような,嫌悪感で一杯でした。私は,どうして,こんな人に頼み事をしたのかと自分が嫌になるくらいでした。 

31 そのあと8月10日ころ,山田君は,神戸の職場をやめて,京都に出てきて,自分の車の中で寝泊まりするようになりましたね。

はい。

32 その頃からほぼ毎日のように,山田君と会っていたのですね。

はい。

33 そのころの山田君は,どんな風だったのですか。

相変わらず肉欲の塊のようで,私に会うたびにしつこく体を求めてきました。たしか京都に出てきた8月10日の日だったと思うのですが,ホテルに連れて行かれて,刃物を見せられ,それで脅されて「メリットくれ」と言われ,身体を求められ,首筋を少し切ら戀????Q?? ????Uれることもありました。また,別の日には,首を絞められることもありました。私は,いい加減,うっとうしく,うんざりし,山田君に頼み事をしたことを後悔しました。しかし,刃物まで持ち出して,血走った態度を見ると,恐ろしくなり,今更,もういいですと言い出せなかったのです。

34 あなたは,そんな山田君に,一方では相変わらず,久保さんを殺すことを催促するような言葉を言っていたのではないですか。    

たしかに,たまたま中村さんや久保さんへの憎しみがぶり返していたときなどに,憎しみの言葉をしゃべったことはあったと思います。しかし,私は,一方で,なかなか実行しない山田君の態度から見て,山田君は,口先ではやるやると言っているけど,実行はようしないと思うようになっていました。それで,山田君が,私の身体を強く求めてきたとき,これを断る口実のような意味で,「やってくれたら,いうことを聞く,それまではだめ」という意味のことを言っていました。決して,本気で催促というつもりではなかったのです。しかし,警察官や検察官は,私のそうした言葉を催促の言葉と理解されたようです。

35 只,あなたがどういう気持ちであろうと,そういう言葉を聞かされると,山田君は,どうしてもやってやろうという気持ちになるではありませんか。

今になると,結果的にそうなってしまいました。しかし,当時は,嫌で嫌でたまらぬ山田君から体を求められるのを断るのが精一杯で,断るのに一番てっとり早い言葉として,「殺してくれるまでだめ」というような言い方をして拒絶していたのです。「やれもしないくせに,メリットを求めないで」というような気持ちです。それと・・・・

36 それと,何ですか。
山田君が,やってくれ,やってくれという無理な要求を出し続ける私が嫌になってくれて,神戸に帰ってくれるのではないかという期待もあったように思います。

37 久保さんを殺してくれという気持ちはなくなっていたんですか。

全くなくなっていたとは言い切れないかもしれませんが,特に,宮崎のお祖母さんの葬式に行った頃から,私の気持ちは相当落ち着いてきていました。もう中村さんや久保さんのことなどどうでもいいというような気持ちでした。それよりも,山田君が自分にまとわりついて,身体を求めたり何かと要求してくるのが次第にうっとうしくなり,嫌で嫌でたまりませんでした。山田君と離れたい,山田君への嫌悪感がむしろ当時の気持ちの中心にありました。

38 山田君に本気で殺害を唆し,山田君が本気でそれを実行すれば,あなたは,いずれ,山田君に身体を許さなければなりませんよね。それは,仕方がないと思っていましたか。

いえ,私は,特に最後の方は,何とか山田君から離れたいという気持ちで一杯でした。そんな山田君に身体を許すなどということは,身震いするほど嫌なことで,そんな風に絶対なりたくありませんでした。

41 久保さんに対して,今どう思っていますか。
私の言葉がきっかけになって,こんな結果となり,申し訳ないと思っています。

42 中村さんには今どう思っていますか
迷惑をかけたとも思いますが,正直に言って,私に対する仕打ちには,まだ,許せないという気持ち少し残っています。



検察官

 山田君に,久保さんを殺してほしいと言ったのは,あなたの真意ではないんですか

たしかに,最初は,中村さんや久保さんが憎い,久保さんを殺してやりたいという気持ちもあったのですが,ずっと最後までそんな気持ちだったわけではなく,最後は,山田君が嫌だ,怖いという気持ちが中心でした。久保さんをやってくれという気持ちはどうでもよくなっていたような気がします。

 それでは,あなたが,最後まで,山田君に殺害を催促するようなことを言っていたのはどういうことですか。

殺害を催促するつもりではなく,山田君の求めを断るというか,逃げる手段として,「やってくれるまでは,だめ」というような言葉を言っていたのです。必死の顔つきで,しかも暴力がらみで迫ってくる山田君を拒絶する言葉として,それ以外に思いつかなかったのです。

 しかし,あなたは,宮崎から帰った直後,あなたが憎しみが薄れたと言っている時期,しかも,電話ですから,山田君から体を求められているわけでもないときに,催促の言葉を言っていますよね。なぜ,そんなことを電話で話したのですか。あなたの言戀????Q?? ????Uっていることは矛盾しているでしょう。

電話をした日は,中村さんの姿を会社で見かけて,憎しみがぶり返すような気持ちになって,そんな気持ちが電話の言葉に出たのだと思います。催促までした積もりはないのですが・・・・。

 あなたの気持ちがどうだったにしても,また,山田君の求めを断る気持ちもあったにせよ,そんな言葉を出したら,山田君をますますその気にさせるではないですか。それくらいのことは分かるのではありませんか。

ただ,何回も山田君と会っていましたが,中村君は,なかなか実行しませんでした。そのうちに,私は,山田君は,口先だけで,そんな恐ろしいことをやれないと考えるようになっていました。どうせ,やれないことだから,殺害のことを口にすれば,山田君は,いつまでもそのことを要求する私のことが嫌になって,諦めてくれるというような気持ちもありました。

 あなたは,,山田君が早く久保さんを殺して,神戸かどこかに逃げてくれたら,会わなくて済むと思って,殺害を催促したのではありませんか。

取調べの警察官や検察官は,そんな風に理解していたようですが,私は,そのような気持ちはありませんでした。

 また,山田君は,あなたが体をえさにして唆してきたと述べているのですが,あなたの言動は,そう見られても仕方がないんではないですか。

刑事さんや検察官にも,今日私がこの法廷で言ったようなこと説明したんですが,そんなことは普通の人には通用しない。それではあんまり山田がかわいそうじゃ,と言われたことがありました。しかし,私は,そんな,山田君をそそのかすような気持ちの余裕はなかったのです。山田君が身体を求めてくるのを断るのに精一杯だったのです。

 久保さんを殺してほしいという気持ちがなくなっているのなら,山田君にもういいから,やめてくれと言えばよかったではないですか。

私の頼みがきっかけになり,わざわざ京都までやってきてくれた,しかも最後は,神戸を引き払って京都に出てきた山田君に,今更やめてくれとは口にできませんでした。そんなことを言えば,山田君がどんなに怒るか恐ろしい気持ちもありました。只,辞めてくれとは言わなくても,山田君が本当に恵子さんに危害を加えるはずはない,何かやるようなことを言っているのは,私の歓心を得ようとして,口先だけで言っていると思っていたのです。



裁判官

 山田君とは電話とか会ったときにはいつも恵子さんを殺すというような話をしていた  んですか

彼の方から,私の身体を求める口実として,いつも,やったるから俺の言うことを聞けとか,メリット先にくれというもんですから,それに応じて,そんな話しになっていました。最後の方は,いつやるのよ,まだやれてないのに,というように言い返していました。求めを断るための言葉です。