● 第4回シンポジウム (2001年 1月28日)
2001年1月28日の東京における私たちのシンポジウムの概要は,以下のとおりです。

「裁判官を30年内に7000名に増員」
「判事の給源の多元化」
「判事任命手続の見直し」
「裁判官人事制度の透明性、客観性」
「裁判官の評価システム」
「裁判所の機構改革案」




● 裁判官を30年内に7000名に増員
安原 浩 (大津地裁判事) 

約30年前の昭和43年と比較的最近の平成10年の民事・刑事通常訴訟事件総数を比較すると約90パーセント増加している。

 今後法曹人口の増加やADRの発展、規制緩和の影響等を考慮すると、裁判所に提起される訴訟の数は増加と減少の双方の要素が考えられるが、トータルでは増加傾向が継続し、今後30年間に平成10年の民事・刑事通常訴訟事件総数約57万件の約50パーセント増の約85万件程度になると見込むのが合理的である。

 昭和43年当時は裁判官が比較的余裕を持って仕事ができた時期と考えられるので、当時の裁判官の担当訴訟事件数から30年後の必要裁判官数を計算すると約7000名となる。さらに今後10年内にも5000名程度への増員が緊急に必要である。




● 判事の給源の多元化,シェアリング,判事補制度,研鑽
小林 克美 (京都家裁判事) 

 【判事の給源】は、第一に弁護士又は検事(行政官庁で働く検察官を含む)の経験を通算10年以上有する者、第二に判事補10年以上の期間の最後の3年以上の間に弁護士又は検事(留学等は不可)を経験した者とする。

 【判事補】7年目までの者には執行・破産・保全などの決定事件を担当させるほかに、判決手続で判事を補佐する調査官職を担当させることとし、合議事件の陪席には入れず、裁判官独立の精神をかん養する必要上、調査官職は判事任官の3年以前に離脱させる。

 【シェアリング】は弁護士・検事出身の判事が占める割合を50%以上とする。2032年までに判事・判事補を6千人へ増員するため、判事補を毎年100人採用し続け、遅くとも2017年から弁護士・検事出身の判事を毎年250人以上採用し続ける。

 【弁護士・検事の判事任官勧誘策】の一つとして、判事の給与体系を現行の4号と3号の2段階だけとし、転勤は高裁管内に限定し(巨大東京高裁管内は分割して)応募制をめざす。また、パートタイマー判事制度を採用し、フルタイム判事へのランチャーとする。

 【研修】は司法研修所、法務総合研究所、日弁連の研修機関が共同して判事研修を企画実行することとし、参加は判事の自主性に任せ、再任期の評価資料とする。

 以上は【最低限の改革ライン】として提案するものである。




● 裁判官任命手続の見直し
森野 俊彦 (和歌山家裁判事) 

 判事補の採用、判事の任命について、現在はすべて最高裁判所だけが「名簿作成」にかかわっているが、これを改め、「裁判官任命諮問委員会」の関与が必要である。

 「判事補採用諮問委員会」(仮称)については、全国でひとつの組織で東京に設け、その構成は、半数程度を裁判官、司法研修所の検察、弁護教官、最高検察庁、日弁連から選び、あとの半数程度(必ずしも半数確保に固執しない)を民間から選ぶ。

  民間の委員は、結果として各界を代表する人が選ばれればよいであろう。財界、労働組合、教育界、消費者団体、法科大学関係者、報道関係者等の代表が考えられる。

 「判事任命諮問委員会」(仮称)は、高裁単位で設置するのが相当で、当該高裁管内の裁判所及び当該管内の「市民」の意見が反映される必要がある。

 その構成について、国民の意見を反映させるために、裁判官2分の1、それ以外が2分の1という構成が望ましく、またその委員になる裁判官については「選挙制度」を導入すべきである。もっとも、長官なり所長が応募制により選ばれる場合であれば、そこで民主制がクリアされたとみて選挙の必要はないかもしれない。他の有識者については、判事補採用諮問委員会と同様、結果として各界の代表者が選ばれるのがよいであろう。

 任命手続き全般について透明性、客観性、説明責任を確保するため、判事補への採用、判事への任命を希望したのにもかかわらずそれが拒否された者に対して、少なくともその理由が開示されなければならない。




● 裁判官人事制度の透明性、客観性
岡 文夫 (大阪家裁判事) 

 裁判官の人事制度における、透明性、客観性、説明責任の確保につき、次のような提案をしたい。

1 人事委員会の設置
     下記のような人事委員会を設置し、転勤、部総括指名、所長、長官指名等に関する権限を与える。
    1.  委員は、高裁管内の裁判官内から選挙で選任し、さらに、国民の司法参加の観点から、有識者、弁護士代表者を少数、委員に加える。
    2.  委員会は、高裁単位で設置する。各裁判官の評価を把握しやすくし、また、権力の集中を避けるためである。人事に関する資料は人事委 員会が収集する。
    3.  委員会は、本人の人事情報を本人に開示する。
2 人事の不服審査制度の設置
     人事に関する不服審査制度を設置し、その委員は裁判官以外で構成する。
3 転勤応募制
     現在の転勤制度を廃止し、ポストが空いた場合にのみ、公募により転勤者を募り、複数の応募者があるときは、人事委員会が決定する。さらに透明性、客観性を進めるには、部総括、所長、長官を関係裁判官内で選挙することとする。
4 昇給制度の簡素化
    裁判官が全て対等であって裁判官間で序列を作らないために、現在の多段階の昇給制度を廃止し、任期である10年単位で昇給する。


● 裁判官の評価システム
仲戸川 隆人 (千葉地裁八日市場支部判事) 

 裁判官人事を客観化、透明化するためには裁判官の評価が適正に行われる必要がある。裁判官の評価は、裁判官本人に自己改善のインセンティブを与え、人事委員会、裁判官任命諮問委員会の諮問のための人事資料を得る目的で行われる。

 評価の時期は、3、4年に1回とし、転勤、配置の前にも行われる必要がある。

 評価の手続は、自己評価、同僚による相互評価、人事委員会によるアンケートの3方法による。

 アンケートの回答者は、弁護士、検察官、上級審裁判官、裁判所職員、陪審員、参審員とし、評価を多面化するとともに評価の精度を高めるべきである。

 評価の技法は、裁判官の法曹としての経験年数に応じた5段階の絶対評価とする。

 評価基準は、親切であるか、熱心であるか、心が開かれているか、人間性が豊かであるか、公正であるか、専門的能力が高いか、訴訟指揮、訴訟運営が優れているか、決断力があるか、迅速であるか、指導力があるか、社会経験・常識・教養があるか、総合判定の12項目とすべきである。


● 裁判所の機構改革案 − 司法行政改革について 
浅見 宣義 (元宮崎地裁判事、預金保険機構出向中) 


   審議会でまだ本格的に議論されていないが、司法改革の最後のまとめとして、裁判所の機構改革が不可欠。それには、3つの視点が必要。  

第一は、裁判官制度改革のために、裁判官独立を機構的に保障する自治と分権の視点。  

第二は、国民の司法参加の具体化としての裁判所運営への国民参加の視点。  

第三は、戦後改革の轍を踏まないための制度形骸化防止の視点である。  

 第三の視点の関係では、他分野で現実に行われている各種改革の発想や方法(中央省庁の再編や地方分権化、民間との人事交流等)も参考にすべき。

 具体的提案は次の7つである。
  1. 最高裁判事に司法行政の担当制採用と司法行政専門の補助職員の付与
  2. 最高裁事務総局の整理統廃合
  3. 最高裁事務総局への民間人等の登用
  4. 司法行政権限に関する法律の制定(または、裁判所法の改正)
  5. 下級裁判所裁判官の司法行政への日常的な参の保障
  6. 司法情報公開法の制定
  7. 地裁、高裁、最高裁各委員会の設置と実質化