● 「わが不老長寿法」(続)その10
岡山弁護士会弁護士  宮 本  敦 
(サポーター,元日本裁判官ネットワークメンバー) 
1 私はかなり健康には留意していると言ってよいと思う。日頃飲食の量も減らしているし,野菜やビタミンの摂取量も多い。ただ懇親会や宴会の機会が多く,それが減量の妨げになってはいる。

2 ところで今年の6月初めころ,何となく体調に異変を生じた。俗に言えば「胃がゴロゴロする」という状態である。当初何年振りかで下痢もした。おかしいと思いながらも様子をみていたが,1か月が経過しても一向によくならない。私は毎年8月のお盆の前後に1泊2日で人間ドックで検査を受けてきた。今年もその予定であったが,それまで待っておれなくなり,急遽日帰りの検査を予約したのである。

3 検査の前日の夜,事務所で一人で手製弁当の夕食を済ませ,テレビを見ながら何となく脈を数えてみて驚いてしまった。「あれ脈が欠けているぞ!」。脈が7回打った後1回程度の割合で欠けていたのである。何分も計ったが,やはり欠けている。まさかと思っていささか動転したのだろう。そのうち2回打って1回欠けるというようなときも出てきた。これは大変な重症ではないのか。

4 不整脈についてはこれまで全く認識していなかった。日頃テニスの壁打ちをしたり,時に遊びテニスをしたりしており,心臓に異常があるという認識のない生活を行ってきた。ひょっとするとわが命ももう余り長くないということなのか。到底「わが不老長寿法」などと呑気なことを言っているような状況ではないのではないか。

5 翌日自分で車を運転して病院に行き,検査を受けた。この10年余り年1回人間ドックの検査を受けてきた病院である。担当医は高校の同級生であり,今は病院長になっている。尿と血液を採取し,内臓の超音波検査,肺のレントゲン撮影,心電図,そして胃カメラ。胃カメラの検査は睡眠薬で眠った状態で行うので,苦しい思いは全くしないで済む。

6 検査の結果は,胃に2カ所の小さな腫瘍があった。細胞を採取したので,数日で検査の結果が出るという。医師としての直感では悪性腫瘍ではないと思うとのことであった。これで胃がゴロゴロしてきた原因は納得できた。検査の結果待ちではあるが,とりあえず安心した。ピロリ菌がいるとのことで,抗生物質などで1週間で駆除できるという。
 そして何と心電図は異常がないというのである。不整脈は心電図に出ていないという。「そんなことはないだろう。昨夜は2拍して1回休みになったりしていた。長生きなどできないのではないかと心配した。」と訴えたが,彼は笑っていた。「不整脈で死ぬことはまずない。」というのである。「何か病気を併発でもしない限り」とも言った。
 ガンマGTPが少し高いという。飲酒量が多い結果である。血糖値もやや高いが,長期間の血糖値の平均値とされるヘモグロビンA1Cは余裕を持って正常値なので心配はないという。

7 近く大腸検査を予約して帰った。細胞検査の結果はその時に聞くことにしたが,検査の結果悪性であれば,それまでに電話してくれることになった。
 検査前夜の妻との会話の中では,明日検査を受けるということしか話さなかった。「もしかしたら長生きできないかも知れないよ。」などとは到底言えない。私は胃よりも不整脈がかなり酷く,その結果長生きできないのではないかと心配したのである。

8 とにかく検査の前日の夜の深刻な思いと,検査後の気分は一変した。死の淵から生還した思いであった。
 人間ドックはもう10年以上続けている。毎回友人の医師が私の胃を覗いている。裁判官になって7年目のころ,仕事のストレスから十二指腸潰瘍になり,以後ストレス性の胃炎が続いたため,その後毎年1回胃カメラを飲んできた。その後確か高校の同窓会のとき,医師であるその友人に胃カメラを飲む苦しさなどの話をしたように思う。ところがその友人が勤務する病院では胃カメラと大腸カメラの検査は睡眠薬を注射して眠っている状態で行うので,全く苦しくないということであったので,それ以降その病院で検査を受け続けているのである。

9 今から5年ほど前に,大腸カメラで数個のポリープが見つかり,出血していたため切除したことがある。ポリープは良性であったが,そのときその検査をしていなかった場合には一大事となった可能性があったとの指摘を受けた。私はこの友人のお陰で今日まで何とか生き延びることができたと思っており,大変感謝している。

10 病気には「先手を打つこと」が大事だと思う。早く手を打てば大体何とかなる。異変を感じたら放置せず,できるだけ早く検査を受けるべきである。多忙であっても病気は待ってくれない。最近友人が胃ガンで死亡した。現在の医学では早期の検査さえ怠らなければ胃ガンで死ぬことないと言ってよい。異変を感じた場合には,何を置いても診察を受けるなど健康を優先すべきであり,健康は自分で守らなければならない。それが家族に対する愛情というものであろう。
 医師嫌いとか,病院に行くのが怖いという人がいる。それは検査するのが怖くなるまで検査を受けなかったということに他ならない。それは「健康に対する自覚不足」ということである。毎年手抜かりなく,必要な健康診断を受けるべきである。それが自己管理として重要であるといえる。
 「人生何があっても達者が一番」と俳優長門勇がテレビで言っている。「あなたの大切な人は笑っていますか」という言葉もある。自分の健康を家族に対する愛情という視点から捉え直す必要があると思う。

11 ピロリ菌退治の薬を飲むようになって間もなく,胃のゴロゴロ感はなくなった。今回の騒動で一旦は死が近いことの覚悟もした。無知に基づく部分もあるだろう。今は胃の細胞検査の結果待ちや大腸の検査待ちなので,まだ安心してよい状況にはないが,とりあえず無事生還できたのではないかと思っている。それにしても,まだまだ健康に対する私の考えは甘いと実感した次第である。
(平成20年8月1日)