● 「わが不老長寿法」(続)その9
岡山弁護士会弁護士  宮 本  敦 
(サポーター,元日本裁判官ネットワークメンバー) 
1 「正常眼圧緑内障」という病気がある。「緑内障」というのは「青そこひ」といわれてきたもので,失明に至る恐ろしい病気である。目に栄養補給をしたり,老廃物を除去する働きをしているのが,目の中の透明な液である「房水」(ぼうすい)であるが,房水の流れが悪くなったり,排出口が詰まったりすると目の中の房水量が増えて眼圧が高くなる。その結果眼底の中心にある視神経の束(たば)の部分が押されて陥没し,目が青く光りだすのが「緑内障」である。目の激しい痛みや視野狭窄,失明という症状が生じることになる。

2 眼圧が正常であるのに,視野狭窄,失明を生じるのが「正常眼圧緑内障」である。眼圧の正常値は10ないし20Hgとされている。確か40歳を過ぎた人の30パーセント前後にその恐れがあるとのことであったと思う。

3 今から10年余り前に,私が裁判官として勤務中にパソコンに向かっていたときツツーと画面を光の筋が走った。驚いてその日の内に近くの眼科医を訪ねて診察を受けたところ,眼底に傷がついており,その傷は今は小さいが,そのまま放置しておくとそこから体液が浸み込んで,網膜を押し上げることになるので,網膜剥離になる可能性が強いと言われた。診断名は確か「光視症」であったと思う。そこで医師の勧めに従ってレーザーで網膜を焼き付ける治療を受けて事なきを得た。おそらくこの治療法を光凝固法というのだろう。

4 その際に視野検査を受けたところ,ごく僅かではあるが,正常な視野に比べると視野が狭くなっているとのことであった。このような初期の状態で視野狭窄が発見されるのは珍しいそうである。左右の目でカバーするので,通常は気づかないのだそうである。

5 その後,眼圧を下げるために房水の生産量を減らすための目薬3種類を使用し,眼底の光に対する反応を敏感にする2種類の薬を飲んでいる。眼圧は10台の前半を維持することが目標で,最近は10ないし12を維持しており,医師に褒められている。

 それでも視野は少しづつ狭くなっているようで,「正常眼圧緑内障」との戦いも10年を超えた。私の担当医も長年固定しており,強い信頼関係ができている。いつまで仕事やテニスができるかは,時間との競争となっていると言えそうである。

6 今から5年ほど前に,私の兄弟が集まる機会があった。そして「正常眼圧緑内障」についての私の経験を話したことがある。そのとき「この話は人ごとと思わず,自分をチェックする参考にして貰いたい。」という一言を言い落とした。言わなくても当然参考にするだろうと思ったからである。しかしその話を他人事として聞いていた兄弟の1人が,数年後「正常眼圧緑内障」と判定されたが,そのときは既に視野狭窄もかなり進行していたことが判明した。

 私がこの話を書いたのも,他人の話は自分には関係ないというのではなく,機敏に反応し,自己チェックに活用して欲しいと痛切に思うからである。

7 「正常眼圧緑内障」は,視神経に異常を来しているものであり,特に強度近視の人に多いとされているようである。

 最近の研究では,「正常眼圧緑内障」は視神経が切断されたり傷ついたりしているという場合もあるのだろうが,そうではなく視神経にアミノ酸などのタンパク質が蓄積されて,視神経の伝達が障害されているのではないかという見解があるようである。米国ではこのアミノ酸は「アルツハイマー」の治療薬で溶解されるという研究結果があるとのことであり,ねずみによる実験では成功しているという報告もあるそうである。そうするとアルツハイマーの患者には「正常眼圧緑内障」の患者はいないことになるという理屈になるが,現在のところそのような結果が報告されているのかどうか,私は知らない。

8 私は早くこの治療法が確立することを切に願うものである。これは80歳まで私がテニスをできるかにも密接に関わっているところである。

 でき得れば,目に不安のある方は年1回程度,眼圧や眼底検査,視野検査など眼科医の診察を受けてごらんになることをお勧めする。
(平成20年6月1日)