● 速記問題について(日本裁判官ネットワーク1月例会報告)
石渡照代(ファンクラブ代表,裁判所速記官)
 報告の一番バッターは「裁判所速記官の最新お仕事情報」でした。電子速記研究会事務局長の小西貴美子さんがパワーポイントを利用して分かりやすく、説得力のある報告を行いました。要点になりますが紹介します。

 速記官の9割が日々仕事で使用している電子速記「はやとくん」とは? 速記タイプ「ステンチュラ」とは?から始まり、進化している裁判所速記官の仕事ぶりを紹介。弁護士会などが行う模擬裁判員裁判では、リアルタイム速記をして評議に間に合うように速記録を提供していること、毎年の日弁連人権擁護大会ではリアルタイム字幕を表示していることが紹介されました。(ここで画面を切り替えて、今の話を横でリアルタイム速記している字幕を表示して、その目で確かめていただきました。)

 世界的な視点でみれば、アメリカでは5万人の速記者がいて、陪審裁判になくてはならない存在(法廷とデポジション)であることや、更に進んだハイテク法廷の模様が紹介されました。お隣の韓国・中国ではタイプ式の機械速記が導入されリアルタイム速記が裁判所でも使われていること。ハーグの国際刑事裁判所でも速記が活躍し、即時に英語またはフランス語で表示されるし、午前中の弁論速記録が午後ホームページにアップされていることが紹介されました。

 一方、最高裁は速記ではなく音声認識方式を開発するため多額の開発費を投入して「実用に足るものに」しようとしているようですが実現の目処はなく、裁判員制度ではビデオ録画を採用するという提案です。ビデオでは一覧性がなく、裁判員の評議にも、当事者の訴訟準備にも効率が悪いこと。ビデオを採用するならば、その時間データと、速記と同時に作られる時間データを同期させることで、文字から映像・音声が容易に検索できることから、ますます速記が必要と強調されました。(ここで民間TV局やNHKで実用化されているリスピーク(再発話)による音声認識や、6人が1組となって行うスピードワープロによるTV字幕の例も紹介。)

 養成停止以来、速記官の数が290人まで減少し、1人の速記官もいない地裁が全国で8か所もあり、このままでは裁判員制度が導入されたとき、私たち速記官はやりがいを持って臨めるのかと、1日も早い養成再開の決断を最高裁に訴えていることを紹介して終わりました。

 続いて「速記官制度を守る会大阪支部」事務局長の笠松健一弁護士から、具体的な事件での経験を引きながら速記録の優位性が述べられました。特に連日的開廷となれば、その夜に検討して翌日に臨むためにも記録の即日交付が不可欠であること、ビデオと書面、更にデータが交付されれば、充実した準備と効率化につながることが強調されました。

 その後のQ&Aで出された特徴的な意見をアットランダムに。

「世界的に速記が進んでいることを知って驚いた。速記は科学的・合理的だ。なぜ日本でも同じようにできないのか。」

「ビデオ録画するにしても、あとで記録を作成するとすると、そのどちらが正式なものになるのだろうか。」

「養成停止を決めるとき、今のソフトは開発途上だった。いいものができたのだから再検討すべきではないのか。」

「養成停止にいろいろ理由が付けられたが、これは冷厳とした司法政策なので撤回はないのではないか。」

「裁判所が行う模擬裁判にすら速記官はオミットされている。『速記官が将来的に不安定な状況に置かれることのないよう十分配慮をすべきである。』との国会附帯決議が生かされていない。」

「『ステンチュラ』1台40万円が私費とは驚いた。公務員としては異例なことではないか。」

「裁判員に選ばれた場合、ビデオではなく速記録がなければ対等に議論できないと思う。裁判所に市民が入っていって速記録の必要性をアピールしていかなければならないのではないか。」

「裁判員制度には取調べの可視化・証拠開示・速記が重要、その問題意識を市民に持ってもらうためにはどうすればいいのか。」

「最高裁の音声認識研究は何度も失敗している。速記復活の気配はないのか。」

「最高裁は、ビデオにインデックスを付けて記録する方針で固まっている。評議で記憶があいまいなことがあったりしたときは、裁判官が説明することで足りるとしている。それより速記が優れていることの証明が必要ではないのか。」

などなど、予定時間をオーバーして発言がありました。最高裁に聞いてみたい質問も幾つか出されましたが、あいにくこの場には回答する立場の方はおらず、聞くことはできませんでしたが、一同、速記問題についての認識を一層深めるよい機会となりました。

(平成19年2月)