● 本因坊のボヤキ9.29
山田眞也(サポーター,元裁判官,現弁護士,千葉県) 
 昨日からの囲碁名人戦第三局。破竹の勢いで二連勝したチャレンジャーの高尾本因坊に、白番の張名人が巻き返し、今日、午後四時からの衛星放送では、「何をやってるんだろうなあ」などと、しきりにぼやく本因坊の声が、はっきりと聞こえる。

 第一局で勝ったとき、「とにかく四番負け続けることにならなくて、よかった」と語った高尾さんの言葉は、人柄をそのまま表していると感じられ、こんな謙虚さが、勝負師のなりわいと、どう調和するのかとふしぎに思った。この人に限って、ボヤキで三味線を引きはすまい。むろん、こんな超一流の棋士の間で、相手のボヤキが本音か三味線かは、互いにお見通しに決まっているが。

 それにしても、この人は本音を隠さない性分ではないか。われらザル碁党が始終口にする合いの手と、そっくりである。おれもボヤキ方だけは、本因坊と同じだぞと、つい、うれしくなり、親しみがわくのは、私だけではあるまい。物静かさが持ち前の張名人の方は、ほとんど聞き取れないつぶやきを、たまにもらすだけのようだ。

 結局、五時半過ぎに、左上隅の黒地に白がサルスベリした手をみて、本因坊が投了した。さすがに名人、決してズルズルとは土俵を割らない。

 この碁の解説者は、おなじみ、マイケル・レドモンド九段。完璧な日本語で、ザル碁党にも一応はわかったような気がする解説をしてくれる人だ。好きな棋士の一人である。日本人がどんどん失って行く日本のよさを、体現してくれる人のようだ。アジア人以外の高段者は、今のところ、この人だけだろう。マイケルに続く非アジア系の有力棋士が、早く現れてほしいものだ。

 私は月に一度くらい、八重洲口会館の日本棋院八重洲囲碁センターで、半世紀前のclassmate十人前後が集まる碁会に出かける。経済企画庁の事務次官を務め、退官後も公正取引委員に任じられていたK君が、四段の免状を持っているときいて、私の棋力も同じ程度だと勝手に決めているが、日本棋院も免許料は大事な収入源だろうから、そう厳正に棋力を審査しているとは思えない。

 私の夢は「天下五目」。五子を布いたら棋聖にも名人にも負けないというクラスに達することだが、これも到底無理なことはわかっている。もう三目くらい腕を上げなくては、とても届かないが、碁会の成績は一進一退、一向に進歩の兆しはない。それでもボケ封じには役立つ。勝っても負けても財布に響く気遣いはないから、夢だけを後生大事に抱えて、似たり寄ったりの仲間と打ち続けている。

(平成18年10月2日投稿)