● 司法改革と人材 |
白山太郎(ファンクラブ) |
4月から自転車通勤と水泳,ウォーキングを始めた。日頃の不摂生がたたり,医師から尿酸値が高く,このままでは痛風を発症するおそれが極めて高いと診断されたのだ。幸い,今のところ,順調で体調もよく,体重も徐々に減ってきている。
なかでも,とりわけ気に入っているのが水泳である。毎朝,出勤前にスポーツクラブで30分以上泳いでいる。
私の泳ぎは,人並み程度なのだが,うまい人は,実に滑らかに,水の上を滑るが如く進んでいく。動きは大きくゆったりとしていて,ほとんど水しぶきが上がらない。
水しぶきを派手に上げて,手足を激しく動かしている人ほど進んでいない。そのような泳ぎ方だと,逆に水の抵抗が大きくなってしまい,それに逆らうものだから体力の消耗も激しく,長い距離は泳げない。
これは,仕事にもあてはまるような気がする。
私も,肩の力を抜いて,うまく流れに乗って仕事を進めていきたいと思う一方,周囲の抵抗に焦り,無理な力が入ってしまったり,あまりの非効率・不合理な事務処理に,つい熱くなって,派手に動いてしまったりする。もう少しうまく立ち回らないと駄目だと上司に叱られている。
しかし,肩の力を抜いて,流れに乗って仕事をしていくことが必ずしも良いとはいえないこともあるようだ。
昭和初期,金解禁という経済政策を断行した当時の大蔵大臣井上準之助・総理大臣浜口雄幸の活躍を描いた,城山三郎の経済小説「男子の本懐」(新潮文庫)では,自分の考えを曲げずに,流れに逆らい,左遷される若かりし二人の姿が描かれている。特に,日銀の出世街道を歩んでいた井上を左遷した当時の松尾総裁は「仕事は白湯を飲むようにしなければならない」が座右の銘であり,万事に自分の考えを臆せず述べ,周囲との摩擦を生じながらも,新しい試みを次々と実現していった井上に対し,ついに堪忍袋の緒が切れて,左遷の人事権を発動することになる。しかし,そのような不遇に耐え,自分の信念を曲げなかった二人の政治家によって,金解禁という近代日本の命運を左右する政策が実現される。
確かに,日常のルーティンワークでは,仕事は無為にしてなったかの如く,松尾流に進めていくのが望ましいのであろう。しかし,松尾流では,大きな改革や危機には対処できそうもない。その場合,やはり井上流が良いのであろう。
さて,司法制度改革。常に外からどう見られているかを気にし,周囲と波風を立てることを最も嫌う裁判所に,改革を断行する人材が生まれるのだろうか。
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