● 誰の手か一目でわかるペア争碁

山田真也弁護士(サポーター)

 NHKのBSプレミアムに,午前7時15分から「フォト川柳」という番組がある。
 ひとつ,その真似をしてみたいと思い,5月29日午後の囲碁将棋アワーで,碁の金秀俊八段と向井千暎四段の対局を見終わってから,ない智慧をしぼって次の一句をひねり出した。
 「誰の手か一目でわかるペア争碁」
 註釈を加えると,ペア争碁とは男女が一組となり,もう一方の男女の組と勝負を争う対局である。同じチームでもお互いに相談することは許されず,男女が代る代る一手ずつ打たなければならないところに難しさがある。画面には,盤上に石を置く対局者の顔は見えず,手だけが現われる。その手を見れば男の手か女の手かは一目で分かる。手にはもちろん,もう一つの意味もある。
 金・向井の対局では,解説者の小林八段も多くのファンと同様,向井が勝てばうれしいと,けしからぬことを口にした。
 新進気鋭の千暎四段は,向井四姉妹の末の妹だそうで,これまで女流棋士が男に勝つことはきわめて希であった棋界で,男女の実力差がなくなったことを証明して新風をもたらした女流の星として,注目される人気棋士である。
 小林八段は,自身が向井さんと対局したときには,その八段の家族までが向井の勝ちを望んでいたという。
 当然,損な役回りを背負わされたのが相手の金八段である。
 私も何とか向井に勝たせたいと思い,はらはらしながら局面の進行を見守った。
 最初から白の向井が押し気味で,黒の金は苦戦していると小林八段が評し,私もむろん判るはずはないのだが,こう打てば白が優勢になるのではなかと何度も思った。
 やがてすさまじい劫争いが始まり,白がここで劫を解消してしまえば莫大な実利が得られるのではないかと思う局面が続いたが,白も黒も全く妥協せず,最善の手を求めてお互いに相手の劫立て応じ,延々と劫争いを続けた。
 お互いに10分の持ち時間があるが,1分以内に打たなければ,その都度持ち時間が1分ずつ減っていくという早碁だから,すごい。
 ついに黒が白の劫立てに応じず,劫を解消して実利を得たため,白の敗色が濃くなったと解説者は言うが,むろん私にはわからない。
 しかし,ついにただ一手のゆるみが勝敗を決し,白はきれいに投げた。
  向井千暎,惚れ惚れする負けっぷり
  敗れても颯爽たり向井の碁
  安全牌ついに振らずに向井散る
  意地っ張りついに安全牌振らず 一手のゆるみで負けた千暎の碁
  颯爽と意地張り通す四段には 勝っても損とぼやく八段
 以下に掲げるのは,いずれも私自身のヘボ碁の体験を詠んだもの。解説の必要はあるまい。
  敵さんは知ってた狸の腹鼓 いつ覚えたとわが頬叩く
  劫だけは逃げたつもりの勝手読み,下駄かけられて呆然とする
  あのカモがいつ覚えたとしびれる手 鼻曲がりそうなイタチの腹付け

(以前にご投稿いただいていた原稿です)