● わがB級グルメ道(その8)
岡山弁護士会弁護士  宮 本  敦
(サポーター,元日本裁判官ネットワークメンバー)
1 今回は「大根」の話である。私はかねてから大根を美味しく沢山食べたいという強い願望を抱いてきた。春の七草の「すずしろ」とは大根のことであり,「せりなずな ごぎょうはこべら ほとけのざ すずなすずしろ これぞ七草」という。大根が健康によいかどうかについては,私はまだ十分には検討していないが,ビタミンCや消化を助けるジアスターゼなどの酵素,食物繊維などが豊富だし,毛細血管を強化し,脳卒中の予防に有効とされているビタミンPも含まれているそうである。また大根の辛みは胃液の分泌を促して,腸の働きを整えるとされているらしい。カロリーも少ない。不老長寿という意味では顕著な効用はなさそうではあるが,主としては野菜を沢山食べるという意味で,健康にはよいと思われる。

2 私は実はもう何年も前に,大根の本を何冊か買い込んだような記憶が蘇った。そこで本箱を捜してみると,隅の方から「大根を食べつくす」という趣旨の本が2冊出てきた。

3 まず大根おろしであるが,やはり大根は冬の方が美味しいようである。大根おろしを手動で少量作るのはそれほどおっくうではないが,大根おろしのマニアを目指す私としては,大量の大根おろしを作ることになる。大量といってもせいぜい大根10センチ程度に過ぎないが,それを手動で製造するのは甚だおっくうで困難である。そして実は数年前に電動大根おろし器を購入したのであるが,使い勝手が余りよくなくて案外面倒なので,数回使用しただけで長らくホコリをかぶっていた。おそらく常時大量に大根おろしを食べようという気持が弱かったためであろう。

4 最近健康のために納豆を沢山食べようと思うようになり,偶然大根おろし納豆を食べたところ,すっかり気に入ったのである。そこで大根おろしを大量生産することになり,物置から電動大根おろし器を探し出した。使ってみると,やはり手動よりもはるかに便利であり,しかも使用回数が増えるに従って手際がよくなり,今や面倒と思うこともなく,大根おろし製造の名手のようになってきた。最近は新しい電動大根おろし器が売り出されていて,買ったという人に聞くと,とても便利だという。私も内心はとても欲しいのであるが,買いたいというと妻が素直に同意するとも思えないので我慢している。妻に買ってくれというのではなく,自分の小遣いで買うのであるから,何んら文句を言われる筋合いではないが,世の中には何かと細かな配慮も必要だということである。もっとも少し前に自分の小遣いで一万円程度の「手動千切りキャベツ器」を購入したが,日頃食べる千切りキャベツはごく少量なのに,この器具を使用するときは大量生産となってしまうので,すぐにこの器具の使用を中止したという前科もあって,新型大根おろし器を買いたいと言いにくいという事情がある。そこでもう暫く我慢して,今の機械を熱心に使いながら,早く壊れるのを待つという作戦なのである。

5 この間健康のために,朝食として納豆ご飯とゴーヤジュースを1日交替で摂取するという実験を行ってきたが,最近方針を変更した。ゴーヤジュースの材料を半分に減らし,納豆ご飯もご飯をごく少量に減らすことにして,毎日朝食として納豆ご飯とゴーヤジュースの両方を摂取することにしたのである。そしておろし納豆と生卵納豆とキムチ納豆による納豆ご飯を順次食べている。生卵納豆は,以前「ポリアミン健康法」として書いたことがあるが,納豆と生卵を冷蔵庫から取り出し,掻き混ぜて30分置いておくと,卵の蛋白質を原料として,納豆菌によりポリアミンという成長促進物質が生産されて,不老長寿に役立つという理論であり,最近の研究の成果とされている。また何かのTVで,白菜キムチを細かく切って,キムチ納豆ご飯にすると,脳の毛細血管の微細脳梗塞を防止できると言っていた。正しいかどうかはよく分からないが,これらをひたすら信じることにしたのである。まさか有害ということはあるまい。私は納豆を不老長寿の重要な要素として重視しており,今後も熱心に食べようと考えているが,その一環として大根おろしをセッセと製造することになったものである。

6 次は「おでん」である。私は醤油で煮付けた柔らかくて薄味で美味しい大根を手軽に沢山食べたいのであるが,とりあえずはおでんということになる。見つけ出した本で調べて,本のとおりにおでんを作ってみた。とても美味しく出来て感動してしまった。珍しく妻からも合格点が出た。もっとも新婚早々の新妻のごとく,料理の本と首っぴきで本のとおりに作るのであるから,美味しくない訳がない。すでに何度もおでんを作って成功し,自信を深めている。調べてみると,わが家にはおでんに関する本が4冊あることが判明した。それらを全部カラーコピーしてファイルし,一通り作ってみた。いずれも美味しくできた。今後はそれらの本の長所を統合して,「おふくろの味」ならぬ「秘伝おやじの味おでん」を作るべく工夫することにした。まだ完成はしていないが,「おでんの秘訣」は少し掴めてきたように思っている。

7 まず大根を2センチの輪切りにして皮をむき,表と裏に十字の切り込みを入れてフライパンに10個くらいを並べ,水をヒタヒタにして少量の米と昆布を加えて20分茹でるのである。10分が経過したころ,別の大きな鍋に所定の調味料やおでんの具材を入れて,おでんの煮込みを開始し,大根を茹で始めて20分が経過したころ,大根を鍋に移して更に20分ほど煮込むのである。煮物は冷める過程で味がしみ込むとされている。通算40分で一旦火を止めるが,それが冷えたころもう一度点火して,煮立つとすぐに火を止める。つまり二度炊きするのであるが,どうもこの二度炊きがコツのようで,とてもおいしいおでんができる。時間がかかるので,土,日に調理することにした。

8 昼食は大体妻や事務員と一緒に応接机を囲んで,TVや私が録画しておいた教養番組や健康番組などを見ながら,それぞれが持参した弁当を食べており,楽しいながらも強化合宿的昼休みとなっている。おでんの大根は匂いが強いので,弁当のおかずに持参するのは遠慮した方がよいだろうという事情もある。月に二度を目標に実験中であるが,私が熱望していた味に次第に接近しており,さらに工夫を加えて,「おでん道」を極めることにした。そのうち「おでん店」を開店できそうな気がしている。

9 おでんほど多くの材料を使用せず,時間もかけず,もっと簡単で素朴で美味しい大根料理も追求してみたい。また本で調べると,ブリ大根を初めとして,ふろふき大根や多少面倒そうではあるが,美味しそうな様々な料理が書いてある。大根の味噌汁や漬け物,大根の皮のキンピラなども含めて,いずれ大根料理の名手になることに決めた。毎週1本は大根を食べる実験中であるが,余り手の込んだ料理は当面敬遠することにし,いずれ人生が暇になった時に,新進「大根料理研究家」を目指すことにしたい。
 妻は私の好きにさせ,味を見ながら時々論評を加えるという作戦のようである。

10 その後も土日に月に二度の割合でおでんを作っているが,最近何となく味に不満を感じるようになってきた。美味しいことは間違いないが,毎日でも食べたいような「病みつきの味」には至っていないと思うのである。その原因はよく分からないが,「わがB級グルメ道」としての「おでん」はまだ未完成ではないかと思うようになった。おでんの食べ過ぎで飽いてきたのかも知れない。それはともかく今暫くは,なお美味しいおでんを追求することにした。現時点でのおでんの味は約80点として,90点を目指そうということになろうか。そのため美味しいおでん店を探して妻と食べ歩きをするとか,さしずめあちこちのコンビニから,私がおでんを作った際におでんの大根を二個買ってきて,妻にも頼んで私のおでんと食べ比べて貰っている。やはりコンビニのおでんの方がほんの少しだけ美味しいように感じられるが,道はそう遠くはないような気がしている。いささか気楽な道楽ということになろうか。

(H22・12・1)