● わがB級グルメ道(その7)
岡山弁護士会弁護士  宮 本  敦
(サポーター,元日本裁判官ネットワークメンバー)
1 今回は酒の話である。私は事務所で夜遅くまで仕事をして,車で帰宅する途中,1日のご褒美としてコンビニに立ち寄り,カンビールか日本酒のワンカップを1本買って帰ることをささやかな楽しみにしてきた。家にはアルコールは置かないのである。この程度であれば,酒を文字どおり百薬の長にできることになる。遺伝的には飲める家系であると思われる。

2 ところが最近,コンビニでどのアルコールを買うか迷うことが多くなった。どうやら飲みたいと思うアルコールがないのである。アルコールを余り美味しいと思わなくなっているようで,今日は買うのを止めることにして,何も買わないで家に帰ると,何だか寂しくて,また自転車で買いに出たりする。困ったことである。

3 きっと肝臓を悪くしているのだろうと思ったが,人間ドックの血液検査の結果は,ガンマGTPという,飲酒すると増える酵素の数値が多少高い程度で,肝臓は元気だという。

4 最近のビールは質が落ちて,まずくなったのであろうか。ある弁護士もそう言っていた。それとも私の舌が肥えたということなのか。そう思ってはみたものの,わがやは案外粗食家庭で,食費には余りお金をかけておらず,エンゲル係数は甚だ低い。どうもおかしい。「私の舌が肥えたのかな。」などと言うと,「粗食なのでそんな筈はない。」と言って妻に笑われてしまった。「人生これ不可解!」である。

5 酒は人生の大きな楽しみである。それなのにこんなことでは困る。そこでいろいろと工夫することなった。まず梅酒である。梅酒なら健康によさそうであるが,甘くて余り好きではない。そういえば偶に買って飲む梅ワインはとても美味しい。これにしようか知らん。
 そんな話を妻としていると,「それなら梅酒の甘さを減らせばよいのではないか。」という。なるほどそれは名案かも知れない。丁度梅酒を作るシーズン中の話であったため,早速梅とホワイトリカーと氷砂糖を買ってきた。梅1キロ,ホワイトリカー1・8リットル,氷砂糖1キロないし800グラムが標準と書いてある。そこで氷砂糖を半分以下にして300グラムで試してみることにした。氷砂糖の追加は簡単であるから,思い切り甘さを抑えて試してみようというのである。

6 せっかちとは思ったが,早速梅酒を製造した翌日から少しずつ味を見ることになった。よくかき混ぜると氷砂糖はほとんど溶けた。梅の味はまだ全くしないが,100CCの「梅酒もどき」に,氷をタップリ加えてオンザロックで飲んでみると,甘さ加減は丁度よさそうである。

7 それから数日間,毎日熱心に試飲を繰り返した。妻は「まあ!」と言って,呆れたという顔つきである。数か月は待つべきだというのである。とにかく格別美味しいというわけではないが,甘さ加減がすっかり気に入ってしまって,梅の味が出る前にホワイトリカーはどんどん減ってゆく。このままジット待っておれば美味しい梅酒ができそうである。しかし梅酒ができる前に,味見と称してドンドン減ってゆく。

8 要するに気に入ってしまったのである。そこで梅酒の大量生産を試みることになった。梅酒用の瓶を捜すと4本出てきた。そこでこの4本全部で梅酒を作ることにした。しかし,梅1キロ分だとビンは6割程度の内容で,空きが多い。そこで各1瓶に梅500グラムを追加し,ホワイトリカーを加えて,氷砂糖も追加した。かくして4本の満タンの梅酒の瓶ができあがった。

9 その後も毎日,帰宅後熱心に試飲しているので,少しずつ減って行く。妻には呆れられているので,隠れて飲む。梅酒を汲み出すのに便利で,太い針金の柄のついた30CC入る器具を買ってきた。カキ氷に蜜をかけるのに使うものである。
 ガラスコップに氷を一杯入れて,これに梅酒を半分ほど注いで,水を加えて一杯にし,チビチビと飲む。できれば1杯だけにしたいが,時に2杯飲むこともある。とても満足している。瓶が半分位に減ると,ホワイトリカーの量を量りながら追加して満タンにして,その量に応じて計算し,計量した量の氷砂糖を加えておき,別の瓶の梅酒を飲み始める。順次これを繰り返す。梅は暫くは食べないでおく。ホワイトリカーは密かに買い置きして隠しておく。ホワイトリカーの追加はとりあえず2回程度にした。最終回は梅も食べてゆく。これは案外名案だと感動すら覚える。瓶は台所の床下の貯蔵庫に入れてあるが,そこから取り出すと飲んでいることが妻にバレルので,1瓶だけ飲みやすい別の場所に保管して,妻に気づかれないようにして飲んでいる。我ながらなかなかの策士だと感心した。もっとも妻は気付いてはいるが,呆れて何も言わないのかも知れない。とりあえず梅酒作戦は大成功のように思える。酒量も減った。

10 ただ毎日梅酒ばかり飲むのも飽きが来る。時に梅ワインも買って来る。しかし更に思索を深めて,ときどき別のアルコールも飲むことにした。その1つが赤ワインである。赤ワインはポリフェノールが豊富で,健康にはとてもよいとされている。酒を飲むなら「赤ワインを少々がベスト」という説もある。しかし期待するほどには美味しくない。たしかに高価な赤ワインは美味しいが,ワインに高いお金を払う気にはなれない。フレンチパラドックス(フランスの逆説)と言われているが,肉を沢山食べるフランス人が健康なのは赤ワインのお陰であると言われている。同程度に肉を食べるが,赤ワインを飲まないドイツ人やその他の国の人は,心臓病による死亡率がフランス人の3〜4倍も高いという研究結果があるらしい。

11 私は赤ワインは余り好きではないが,自称「健康博士」として,赤ワインを少しだけ飲むことにした。「嫌々ながら,家族を不幸にしないため,健康保持義務として赤ワインを少し飲む」のである。そこで1000円程度の赤ワインを順次飲んでみて,時間をかけてお気に入りの赤ワインを捜すことにした。「チリカベ」と言われるチリ産で,フランス産と同じカベルネソービニオンという種類のぶどうを使ったワインは,安くて美味しいと一時期ブームになったこともあるが,余り美味しいとは思わない。そこでとにかく健康のために,余り美味しくない赤ワインを,飲酒大作戦に組み込むことにしたのである。そして月に1本の赤ワインを購入して,3日程度で飲むことにした。ガラスコップに氷を一杯入れて,赤ワインで一杯にしてチビチビと飲む。時に紙箱入りワインも買ってくる。

12 次にビールであるが,最近ビールを余り飲みたいと思わなくなっている。飲んでも余り美味しくない。ただプールで泳いだ後にサウナで5分汗を流し,喉が渇いた状態で飲むビールの大ジョッキはとても美味しい。また瓶ビールは缶ビールよりも美味しいような気がする。そこで一工夫することになった。家でこの美味しい大ジョッキのビールを飲もうという趣向である。大ジョッキのグラスを冷やしておいて,大瓶の生ビール633CCを,冷凍庫でギンギンに冷やして飲むのである。週末の楽しみとして週に1回程度,自宅で大ナマを飲むというアイディアである。

13 これは素晴らしい名案を思いついたと思ったが,案外簡単ではなかった。まず大ジョッキが手に入らない。捜したが見つからない。今のところ100円ショップで購入した100円の中ジョッキを冷やして代用している。案外いける。週末スポーツなどで汗を流したあとの楽しみとして,今後の人生の楽しみに加えたい。そのうちどこかで大ジョッキも手に入るだろう。赤提灯に出かけて大ナマを飲んだついでに大ジョッキのグラスはどこに売っているか聞いてみようか知らん。  最近,250CCの缶ビール1箱(24缶入り)を買ってきた。1日これ1本だけをギンギンに冷やしてチビチビ飲んで済ます実験を開始したのである。

14 最後は日本酒である。以前は日本酒大好き人間だったのであるが,最近余り飲みたくない。なぜかはよく分からない。ただ全く飲まないのも寂しい。そこで一工夫した。日本酒のワンカップを冷凍庫で冷やして,ギンギンに冷えて氷る寸前のものを飲むのである。これはとても美味しい。かくして週に1回程度冷凍日本酒を飲むことにした。これも合格点である。

15 工夫してみると,案外よいアイディアは浮かぶものである。かくして梅酒(梅ワインも含む),赤ワイン,紙箱入りワイン,ビール,日本酒をほどほどに取り混ぜることになった。酒量を抑えることにも成功しており,飲酒の悩みは見事に解決したかのように思える。かくして名実ともに,酒を百薬の長にできるだろう。来年夏の人間ドックの検査では,ガンマGTPの数値はもとより,体重も血糖値も正常値にして,友人の医師を驚かせることにした。

(H22・10・1)