● 多田元さん
くまちん(サポーター)
 先日,長野に出張に行ってきた。少年事件に関する全国付添人経験交流集会に参加するためである。
 遠路長野まで赴いたのには理由が二つあり,前年度開催地の実行委員長として昨年2月の極北の地に300人以上参加していただいたことについて感謝の意を伝えたかったことと,多田元弁護士(元判事)の講演「付添人活動−子どものパートナーとして−変容していく少年司法の中で」を直に聴きたかったからである。

 多田さんは,裁判官として20年,退官後名古屋で弁護士として20年,少年事件をライフワークとして通算40年活動してこられた著名な方である。20回目を迎えた交流集会の第1回の講演者でもある。私は初対面で,勝手なイメージを作っていたのだが,実際は,「変容していく少年司法」と題したけれど「このごろ少し変よう」というダジャレはすぐに思い浮かぶが,話す中身がなかなか浮かんでこないと笑いを取る気さくな人だった。懇親会でも名古屋の若い弁護士達に囲まれて,「多田さんは少年には優しいが,僕たち若い弁護士にはものすごく厳しい」などと言われながら,微笑んでおられた。
 講演の中で多田さんは,一人の少年からもらった手紙をいつも持ち歩いていて,時々元気を失ったときにはそれを読むと言って内容を紹介した。少年院送致の決定に対し付添人の多田弁護士が書いた抗告(不服)申立書の内容について,「申立書を読んでとてもうれしかった。僕の気持ちがそのまま書いてあったからです。僕の気持ちを分かってくれるのは,多田さんと彼女と家族だけです。僕は人の優しさを求めていましたが,少年院で人の優しさに出会えました。多田さん,一日で良いから体を休めてください。」と書かれていた。その後成人した彼は,20歳の年賀状に「僕も子どもを守る大人になるよ」と書いてきたそうだ。
 多田さんは,ある精神科医から聞いた「下医は病を医する。中医は人を医する。上医は世を医する。」というドイツの格言を引き,「下医は現象にとらわれ病気しか診ない。法曹も同じだ。少年非行も,事件から少年を見るのではなく,少年を人として理解する中で非行の意味を考えることが必要なのだ。せめて中医のような法曹でありたいと思う。」とエッセイに書かれている。

 全体会での講演の他にも,6つの分科会が開かれ,私は「離婚における子どもの最善の利益」,「少年逆送事件裁判員裁判の実例から学ぶ」に出席したが,その内容も大変興味深かったので機会があれば紹介したい。
 最近,多田さんをはじめ,少年事件に熱心に取り組んでいる弁護士4名と児童精神科医高岡健さんとの対談本「少年事件−心は裁判でどう扱われるか」(明石書店)が刊行されており,一般の方にも分かりやすい内容になっているので一読をお勧めする。

(平成22年4月)