● わがB級グルメ道(その2)
岡山弁護士会弁護士  宮 本  敦
(サポーター,元日本裁判官ネットワークメンバー)
1 「わがB級グルメ道」の精神としては,第1に「おいしくて毎日でも食べたい」,第2に「安くて金がかからない」,第3に「ほどよく分散して食べることを人生の大きな楽しみにできる」ということにしている。それ以外になお付け加えれば,第4に「できれば健康によく,不老長寿に役立つ」,第5に「量は少な目とする」ということになる。
 現在のところ,自己調理部門としては,第1に「ザルソバ」,第2に「ソーメン」ということになる。自己評価でそれぞれ味は合格点に達し,とても満足している。「わがB級グルメ道」に加える以上,それなりの「思い入れ」か「こだわり」がなければならない。第3の候補として,「ウドン」を考えている。

2 「わがB級グルメ道」のうち外食部門の第1は「ラーメン」であり,今回はその話である。
 私の郷里の人々は「ラーメン大好き人間」のようで,私もその例に漏れない。わが街はラーメン店だらけである。そして私は,それらのラーメン店を30店以上食べ歩いた上で,「ラーメンはこの店に限る」という「ある店」を決めてしまった。原則としてそれ以外の店では食べないということになる。「サンマは目黒に限る」という「目黒のサンマ」の落語にいささか似ている。新しく開店などして「美味しい」という格別の情報があれば,味をみることがないわけではない。そして今後,そのお気に入りのラーメン店で月1回,大盛りラーメンを食べながら,ジョッキの生ビールを飲むことを人生のささやかな楽しみにして生きてゆくことにしたという話である。もっともラーメンが健康によいという話は余り聞かない。

3 この店はおそらく戦後間もないころから,わが街の繁華街の中心付近にあった。トンコツ味とカツオダシの味が絶妙で,濃厚な味なのにアクドクないと評判の店で,クセになる味である。いつも行列のできる店なので,うっかり食べに行くとかなり並んで待つことになる。昼食や夕食の時間を外して行く工夫が必要となる。TVにも時々評判の店として出てくる。事務所の昼食会にも利用したことがあり,好評だった。

4 私は昭和35年前後の高校生のころ,母親に連れられて何度かこの店に行った。とても美味しく思った。高校を卒業して私は郷里を離れたが,帰省の時はよくこの店にひとりで出かけたものである。今も味は当時と変わらない。

5 私は裁判官になり,転勤で関西や関東を転々とし,愛媛県西条市,高知市,松江市に3〜4年ずつ住んでいたことがあるが,年何回か大阪や東京に用事があって,私の郷里の駅で特急から新幹線に乗り換えた。その際途中下車して,市電で4駅目の所にあるそのラーメン店に寄ることを無上の楽しみにしていた。

6 その頃はその店で偶にしか食べる機会がなかったので,実は私はラーメンを2杯食べることにしていた。今はその店に大盛りラーメンができ,お代わりをしなくても満足できるが,当時は大盛りはなかった。並1杯ではやや不満が残ったのである。店員が注文を取りに来ると,私は声を出して2杯注文するのは恥ずかしかったので,「おそば」と言った後で,右手でVの字を作るのである。すると店員は私がなぜそうしているかを考えることもなく,「お客さん,おそば2杯ですか?」と店中の客に聞こえるような大きな声で聞いた。私は黙ってうなずくのであるが,おそばが出来て持参した店員は,「おそば2杯のお客さん!」とまた大きな声でいう。恥ずかしくて店の客が皆私の方を見ているような気がする。私が食べ終えて代金を支払おうとすると,「おそば2杯ですね。」とまた確認するのである。そんなことは声に出して聞かなくてもチャンと伝票に書いてあるだろう!結局合計3回もそんなことを大きな声で言って人に恥をかかせるのである。しかも私が食べに行くたびにである。人の気持ちも考えないで,私の郷里の人は何とデリカシーに欠けているのであろうか。繊細な(!)私の神経をズタズタにする。もう二度とこんな店には来てやるものか,と毎回思ったが,しかしその後も機会あるごとに通った。

7 その後私は裁判官として郷里に帰り,そのラーメンをいつでも食べることができることになったので,恥ずかしい思いをしてまで2杯食べることはなくなった。その後その店にラーメンの大盛りができたため,今は並を2杯食べることはない。

8 私は郷里で勤務するようになった後,美味しい店を職員に教えてもらったり,本で調べるなどして,ラーメン店を30店以上は食べ歩いた。そして結局ラーメンは「その店にしよう」と決めたのである。そして喰い道楽として月1回その店のラーメンを食べることに決めた。
  私は原則として月1回,大体月末の金曜日の夕食として,事務所から自転車で5分位のその店に出かけて,1杯(だけ)の大盛りラーメンと生ジョッキのビールを1杯か2杯飲んで,フラフラしながら本屋に寄って帰って来る。本は結構衝動買いをする。私は毎月この日を楽しみに生きているのである。この程度の人生の楽しみは健康であることのご褒美として許されてよいだろう。できればラーメンは大盛りではなく,並がよいと思っている。せめて妻とその店に出かける時は,並にすることにし,ビールも1杯に限ることにしてみよう。
以 上(H21・10・1)