● ファンクラブについて 
        ファンクラブ運営代表者 石渡照代(元裁判所速記官)
 「裁判官のちょっといい話」になるかどうか・・ですが、もう30年ほども昔の話です。

 元気いっぱいの速記官として法廷に立ち会っていたころ、ある日、あまりにも裁判官の補充尋問が厳しく感じられたときがありました。法廷から出られた裁判官が、「今日は長くなってお疲れ様!」とねぎらってくださっているにもかかわらず、私の口からは「○○裁判官の法廷には検察官が2人いるみたいですね!」と、勢いよく飛び出してしまっていました。多分、一瞬、裁判官は固まられていたかもしれません。ですが、すぐ後「わあ〜言われてしまった、参った、参った〜」と連発されていました。言ったほうは、何気なく、直感的に、若さゆえ口にしてしまった程度の感覚だったわけですが、言われた裁判官は末永く記憶にとどめられたようでした。その後、何年かしてお会いしたとき、あのとき言われた言葉は後輩の指導の機会に紹介さしてもらってるよと、きっちり返していただきました。裁判官の記憶力恐るべしです。こちらが参りました。

 で,最近はどうかと言えば、裁判官の多くは年下となり、私にもそれなりのわきまえもついたのか、直球が投げづらくなりました。そして、職場としての裁判所は年を追ってギリギリとした感じが強まり、裁判官から職員まで寸暇を惜しんで働く場となっています。

 直球を投げ合える人間関係を築きあげることも難しいのかもしれません。「この本おもしろいよ、読んでみる?」とか、「おいしい肉じゃがの決め手は水の代わりに酒を入れること!」など、アフターファイブの四方山話で「研鑽」を積むことも少なくなりました。こういう積み重ねの中で裁判官の人間としての魅力が増していくこともあると思うのですが、どうでしょうか。

 裁判官ネットはまだまだ弱小ネットですが、その周りには約300人で構成するファンクラブがあります。裁判所職員や弁護士の会員もいますが、大多数は会社員・公務員・自営業・学者・記者・年金生活者・司法書士・税理士・教師・医師・主婦・学生などと層が広いのが特徴です。これは社会が、こんな裁判官であってほしいと求めているからこそだと思います。それぞれの思いは多様ですが、市民とくったくなく語れる場であるこのファンクラブ、今後とも大切にしていきたいと思います。
(本稿は,日本裁判官ネットワーク通信NO1「ちょっといい話」から転載しました。)