● 弁護士の仕事
北澤貞男(弁護士,サポーター)

 私は,昭和41年4月から平成16年12月まで裁判所に身を置いたものです。平成17年2月に弁護士登録をしました。弁護士を経験してみて,弁護士の苦労とその役割の重要さを身をもって知りました。

 弁護士の苦労は,自分で何もかもしなければならないことです。しかも,自分の身を守るものも自分しかいないということです。丸腰で国家にも,その他にも立ち向かわなくてはなりません。法理論と社会正義に奉仕する精神だけが武器です。金が味方についてくれることはありません。

 被告人を弁護する場合も,その被告人の個人的利益を優先するのではなく,刑事司法における正義の実現のために戦うのです。被告人がヤクザであっても,ホームレスであっても,政治家であっても,会社経営者であっても,労働者であっても,何者であっても,質的に変わるところはありません。金を目当てに仕事をすることはありません。結果として,相当額の報酬を得ることはありますが,報酬のためだけに仕事をする弁護士は例外であると信じています。世間から極悪犯と見られている被告人であっても,弁護士は弁護するのが仕事です。これを弁護するのは,神でも仏でもなく,この世では弁護士しかいません。こういう弁護士はほとんど国選であり,その報酬は税金でまかなわれます。税金は無駄には決して支出されません。「悪徳弁護士」に無駄な税金が支出されることはありません。

 弁護士は,社会正義を実現するための事件には,報酬抜きで仕事をするものであることも,弁護士になってはじめて知りました。社会正義を実現しなければ救われない人々は,ほとんど金を持っていないので,報酬のもらいようがないのです。勝ったとしても,多くの報酬をもらえるような場合はないようです。

 最近は,被害者保護の主張が強くなっています。加害者に対する非難の声が非常に高くなり,凶悪犯罪を犯した者は極刑(死刑)にすべきだという意見が目立っています。しかし,よく考えて見ますと,日本という国は,これまで,被害者も加害者(被告人)もいずれも大事にしてこなかったと思います。国から大事にされなかった被害者が,その腹いせに加害者とこれを弁護しなければならない立場の弁護士を一緒に非難しているように思えてなりません。これは不幸なことであり,良い結果は何も生まれません。刑事司法が荒廃に向かうだけです。

 日本は国家も社会も危機的状況です。正義も混沌としています。冷静になって,現実をしっかり見つめ,知恵を出し合う時だと思います。私も一人の弁護士として役に立ちたいと願っています。

(平成21年2月)