● 定年直後の三訓
安原 浩

 定年から約1か月が経過しました。それなりの感慨や感想がありますか,と聞かれると正直なにもありません,と答えるしかありません。
 なぜかというと,この1か月間は,毎日引っ越し荷物の整理,要するに狭い我が家に40年間ためた荷物,本類を詰め込むという肉体労働に追われてしまい,裁判所や裁判員制度,あるいはネットワークのことも,定年後の生活設計もなにも考えられない状態が続いていました。ようやく一段落したところですが,将来定年を迎える方に同じような苦労をしてもらわないよう気がついた教訓を三つほど紹介したと思います。

 一つは,本の整理を事前にしておくことでしょう。長年の裁判官生活で集めた本やファイルの数は膨大なものです。今回の引っ越しでかなり大胆な処分をせざるを得なかったのですが,私の処分基準は以下のようなものでした。
 これから読むであろう,あるいは読むべき本として,実務的に評価の高い古典,たとえば我妻さんの「民法講義」や平野さんの刑事訴訟法など,あるいは法哲学関係や自分に感心のある分野の本,さらにごく最近の実務関係の本は残すが,古い実務関係の本やファイルは役立たないと考えすべて処分する,というものでした。しかし,正直なかなか基準通りに捨てることができず,かなり大量の本が残り困っているのが現状です。皆さんもできるだけ早期に厳しい基準をたて,事前に本を選別整理しておくことをおすすめいたします。

 二つ目は,写真の整理が必要ということです。65年間の人生を写した写真の数はモノクロからカラーまで夥しいものです。初期のもの,結婚直後のものなどはキチンとアルバム化して整理してありますが,そのアルバムの重量は大変なものでした。加えて仕事で忙しくなってからはほとんど未整理のまま,任地ごとくらいの単位で段ボールに詰め込んでいました。これからその整理をすることは到底無理と判断し,一つの出来事に印象深い一枚のみの残すという基準で,大量の写真をシュレッダー(少し大型を購入しましたが,大活躍中です。)にかけて処分しました。過去を消すという作業はけっこう気分の良いものでしたよ。

 三つ目は,パソコン関係の連続性をどう保つかの配慮が是非必要です。私の場合松山市から芦屋市に転居したわけですが,松山では光回線を導入していたのですが,芦屋市の私の実家付近はまだ光回線の工事区域に入っていない,とのことでADSL回線に戻しました。しかし,なかなかもとの利用状態に戻らず,その復旧にかなり無駄な時間を費やしました。単なる知識不足だったのかもしれませんが,もっと早く調べて備えておけばよかったと反省しています。

以上,あまり役立たない私の三訓でした。

(平成20年8月)