非行を犯した少年たちの心身を調査した結果には,自分に対する「自信を持てない」という特徴が指摘される場合が多い。
「親にも先生にも叱られてばっかりだし,勉強だってできないし,運動もできない。友達もいないし,わかってくれる人だっていないし,自分だって人のことなんかわからないしわかりたくもない。どうせ自分は何をやってもうまくいかない,ダメなヤツ・・・。」「専門家はこれを「セルフエスティーム(自己評価・自尊心)が低い」と言い,小児・思春期の諸問題の根底にあるものと指摘します。」(注)
セルフエスティームを低下させる原因が問題である。まず,学力についていけない,この場合が結構多い。小学3年生ころから始まる。代わりに運動能力が優れ,クラブ活動で活躍できる少年の場合は,全体としてのセルフエスティームは保たれる。そのクラブ活動をリタイアした後,一気に崩れる少年のいるのも,他にセルフエスティームが持てないからかもしれない。家庭で,幼児期以降に虐待された子供達も,セルフエスティームを持ちにくい。虐待とまではいかなくても,家族からの愛情に恵まれず,人から受容された経験の乏しい子供も,他人を信頼し安心して接する心の基盤が築かれず,自らに自信が持ちにくい。(もちろん,学校や家庭でセルフエスティームを築きにくかった少年たちも,社会に出て,仕事場に恵まれ,よき先輩達ともまれるうち,少しづつ自分を保つ基礎,すなわち自信を見つけだしてはぐくみ,社会人として成長する場合も多いことであろう。)
セルフエスティームが低いと,当然,心に余裕が持てない。自分を維持するのが精一杯で,心は不安で満ち溢れ,すぐに傷つく。それが他人への攻撃となる場合もあり,物で心を満たそうとして窃盗に走り,スピード感で自己の優位性をとり戻そうとバイクに夢中になり,あるいは,心を酔わせて不安を取り除こうとシンナー,薬物に溺れたりする。被害者の気持ちを考えて非行を抑止する力は弱く,被害を及ぼしても,相手の心の痛みを理解することができにくい。ましてや,「他人」の集まりである社会一般のルールに気を配る余裕はなく,規範意識が乏しいと指摘されたりする。
非行を犯した少年たちの矯正教育は,このセルフエスティームを回復するための取り組みと言っても過言ではない。品川さんの下記の本は,少年院で矯正教育に携わる教官達の血のにじむような新しい取り組みをルポしたものである。教官達の流す汗には頭が下がる。こうした努力を少年司法に従事するもの全員が学び,協力しあわなければいけない。
(注)「心からごめんなさい」3頁,品川裕香著・中央法規 |