● Judgeの目その25 最高裁判所長官あいさつ

浅見宣義(神戸地方・家庭裁判所伊丹支部)

 最高裁のホームページに,「平成22年度高等裁判所長官,地方裁判所長及び家庭裁判所長会同における最高裁判所長官あいさつ」が掲載されています(http://www.courts.go.jp/about/topics/2206.html)。この「あいさつ」の意義については,以前当HPにおける「● judgeの目その2  長官所長会同」の中で触れたことがあります。司法のサミットともいうべき会議でのあいさつですから,三権の一つの方針として重要なものですが,まだあまりその認識は広がっていませんので,今回再度「judgeの目」で取り上げることにしました。来年以降も取り上げるかもしれません。

 今年の内容として重要なものは,まず刑事関係です。裁判員制度が施行されて1年が経過し,同制度が順調な滑り出しであり,「裁判員を経験した人々のほとんどが,審理や評議に参加できたことは有意義な体験であったとの感想を述べています。さらに,意見の中には,刑事裁判だけでなく,広く個人を取り巻く社会や制度にも関心を持つようになったといった深い認識を示すものもあります。」と述べられています。先日の東大五月祭の企画を思い出しますね。
 また,裁判員裁判の今後については,重大事件や複雑な否認事件等の審理が本格化する中で,多くの課題に直面すること,公判前整理手続の機能を高め,速やかな審理を実現することが望まれることが述べられているほか,足利事件の教訓から,「科学的証拠の意義,機能について,速やかな検討を行い,その結果を広く刑事司法全般の運用に生かしていけるよう努めなければならない」と触れられています。科学的証拠の検討については,すでに司法研究が始まっていると報道されています。当ネットワークの10周年記念企画では,鳥越俊太郎さんの講演があり,誤判と裁判官の謝罪の問題が取り上げられましたが,上記のように,司法研究の形で,科学的証拠の検討を行うことは,誤判を繰り返さないための,組織としての回答のように思えます。

 次に民事関係で重要なのは,裁判外紛争解決手段(ADR)との役割分担や連携の在り方についての検討のほかに,「弁護士の果たすべき役割を視野に置いた合理的な訴訟実務の形成に向けて,取組を進めることが求められている」と述べられていることでしょうか。当事者主義的訴訟運営が強まる方向でしょうね。
 知財訴訟等を念頭に置いたものだと思いますが,必要な情報利用態勢の検討も触れられています。裁判の現場としては,待ち遠しいというところでしょう。

 家事関係では,当事者の手続保障の強化等を柱とする家事審判法の改正作業に触れられており,「法改正等に適切に対応するとともに,運用面でも,より合理的で柔軟な実務を目指して各職種の意識を改革し,改善,工夫に取り組んでいく必要がある」ことが述べられています。従前の様々な法改正と同様に,法改正以前に運用上の試みをなし,法改正が充実したものになるようにする必要がある一方,法改正内容の前倒し的な運用により,改正法の施行時の準備をし,混乱を避ける狙いがあるのでしょうね。家裁の裁判官,調査官,書記官,事務官みんなが,これからその準備のために,意識改革をしなければならないところがありそうです。何でもかんでも「非訟だから」「職権主義的だから」「後見的役割だから」ではすまなくなる時代ですね。
(平成22年8月)