● Judgeの目その24 新司法試験合格者減の中で考える
 
〜驚きと希望と

浅見宣義(神戸地方・家庭裁判所伊丹支部)

新司法試験の合格者減

 9月10日,新司法試験の結果が出ました。合格者数がどうなるかが注目されていましたが,昨年よりも22人少ない2043人となり,私は少々驚きました。「Judgeの目その21」でも取り上げた日本弁護士連合会による昨年の緊急提言や,同じく今年3月18日の提言(数年間,昨年並みの合格者数(2000人程度)を目安に)もあったのですが,法務省が今年の目安としていた2500人から2900人という公的な数字もありますので,微妙なところを選んで,2200人から2300人くらいになるのではないかと個人的に思っていました。しかし,その予想が大きく外れました。昨年よりも減になったからです。従来の「3000人計画」の政策が変更になったのかどうかが注目されますが,実務家には,「政策」よりも「質」という意見もよく聞くところであり,こうした意見が今年の試験結果のベースになっているのかもしれません
(http://www.asahi.com/edu/news/TKY200909210120.html)。

受験者や合格者の「質」

 さて,新司法試験の合格者数の問題については,当ネットにもいくつかご意見,ご感想をいただきました。法科大学院の教授や司法修習生の方などからです。配点基準が変わったが,それでも,合格者のレベル低下があるという指摘もありました。問題の難易度が昨年と今年で同じなのかどうかの点がありますので,簡単には判断ができかねるところですが,受験者や合格者の「質」は,日本弁護士連合会の上記各提言などを含めて最近つとに言われるところです。実務家の集まりでは,合格者である司法修習生の「質」が下がったという声をよく聞きます。その際に,「こんなことも知らない」といった極端な例が持ち出されることも度々経験するところです。
 しかし,一方で,少なくともプレゼンテーション能力,討論能力,熱意,多様性などは,昔に比べると今の方が上だという声も聞こえます。特に,プレゼンテーション能力,討論能力については,法科大学院の教育を評価する人が多いのではないでしょうか。かつては,論文試験対策を中心にして,書面作成能力が重視されており,司法修習生もそれを身につけるために多くの時間を割いていたと思うのですが,今は法科大学院で口頭による表現力を身につけた司法修習生が多くなった印象を持ちます。民事における弁論準備手続や,刑事における裁判員裁判など,口頭による表現力はますます重要になってきていますので,法科大学院卒の司法修習生は,これからの法曹として期待が持てるところも大いにあると思われます。
 もちろん,法的分析能力,事実調査能力,起案能力等基本的なところが評価されないと,「質」が下がったと言われるのはやむを得ないのですが,評価をする実務家の方も,自分たちが受けた教育や自分たちの経てきた時代の制度を前提にした法曹のあり方をベースに若い人を評価しがちなところもあるでしょうから,ちょっと軸足をずらして見てみる必要もあるのではないでしょうか。

弁護士の新たな可能性

 さて,法曹人口や新司法試験合格者数の議論の背景には,合格者の質の問題と弁護士の仕事が合格者の増加数ほど増えないことに対する危機感とが,渾然一体となっているところがあるようです。ここ何年かは,合格者が増えすぎて,就職できない弁護士も増えましたが,債務整理や過払金の事件の増加で,増えた弁護士人口を何とか吸収してきた面があります。しかし,いずれその事件も終わりに近づくでしょうから,今後どうするのかといった危機感は大きなものがあります。仕事がどんどん増えるなら,合格者の質といっても,今ほど声高に問題にはならないような気がするのですが,どうでしょうか。
 ただ,増えないとされていた企業や官庁に採用されて活躍する弁護士も増えているようですし(http://www.legalmap.jp/interview/legal/detail/interview_001.html),実際に担当してみると大変のようですが,被疑者国選弁護など公的な制度下の仕事も生まれています。実務家が弁護士の仕事を増やすように努力しようという提案は,「Judgeの目その21」でしたところです。
 こうした状況の中で,最近注目されたのは,「政策秘書」説明会のニュースでした。衆院選で大量に新人議員が生まれたことを受け,日本弁護士連合会が弁護士や司法修習生を対象に「政策秘書」の説明会を9月16日に開いたようです(http://www.news24.jp/articles/2009/09/18/07143988.html#)。仄聞するところでは,若手弁護士や司法修習生が180名程度参加したようです。年収700万以上ということですし,弁護士の法的な知識や調査能力が生かせそうなのは魅力ですね。政策秘書は,特別職の国家公務員で難しい試験がありますが,司法試験合格者などは試験免除のようです。採用されても,議員立法が少なく,内閣提出法案が多い中で,実は政策秘書の大部分の仕事は,使い走りだという指摘もありますが,専門家が政策秘書になっていくことで,長い目で見れば日本の立法やその立案部署も変わっていくのではないでしょうか。また,政策秘書から国や地方の議員になる弁護士も多くなるような気がします。「Judgeの目その20」で指摘した日本のオバマさんを見る日もいつか来るのではないでしょうか。
(平成21年10月)