● Judgeの目その16 「ADR法」
  
〜訴訟手続と裁判外紛争解決手続(ADR)は車の両輪

浅見 宣義(大分地方裁判所) 

ADRとは
ADRとは,Alternative Dispute Resolutionの略称で,訳すと裁判外紛争解決手続といいます。聞き慣れない言葉かもしれませんね。これに関する法律「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆるADR法)が,今年4月1日から施行されます。これは司法改革と深い関係があります。なお,以下の記述は,法務省のホームページ(http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/adr01.html)を参考にしたり,引用したりした部分が多いので御了承下さい。

 裁判外紛争解決手続は,仲裁,調停,あっせんなどの裁判によらない紛争解決方法を広く指すものです。例えば,裁判所において行われている民事調停や家事調停もこれに含まれますし,行政機関(例えば建設工事紛争審査会,公害等調整委員会など)が行う仲裁,調停,あっせんの手続や,弁護士会,社団法人その他の民間団体が行うこれらの手続も,すべて裁判外紛争解決手続に含まれます。

 このような裁判外紛争解決手続を定義すれば,「訴訟手続によらず民事上の紛争を解決しようとする紛争の当事者のため,公正な第三者が関与して,その解決を図る手続」となります。


ADRが必要な理由
 裁判所に勤める私達にとっては,ADRは競争相手と呼べるかもしれませんが,一方で,国民の皆さんにとって,紛争解決手続が利用しやすく,実効的であるためには,裁判所による訴訟手続も,裁判外紛争解決手続も,双方が充実し,車の両輪のように機能する必要があるといえるでしょう。それは,次のような理由によるものです。

 裁判所による訴訟手続は,判決の形で公権的な判断を示し,最終的には法的な強制にもつながるもので,紛争解決に極めて有効な制度ですが,一方で厳格な手続にのっとって行われるため,柔軟で迅速な解決にとっては相応しくない場合もあることは否定できません。一方,裁判外紛争解決手続は,裁判に比べて,紛争分野に関する第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図るなど,柔軟な対応が可能であるという特長があるのです。したがって,訴訟手続の機能と共に,裁判外紛争解決手続の機能を充実し,利用しやすくすれば,紛争を抱えている国民の皆さんが,世の中の様々な紛争解決手段の中から,自らにふさわしいものを容易に選択することができるようになり,より満足のいく解決を得ることができると期待されるのです。


ADR法
 ADR法は,裁判外紛争解決手続の機能を充実することにより,紛争の当事者が解決を図るのにふさわしい手続を選択することを容易にし,国民の権利利益の適切な実現に資することを目的とするものです。

 具体的には,(1) 裁判外紛争解決手続の基本理念を定めること,(2) 裁判外紛争解決手続に関する国等の責務を定めること,(3) 裁判外紛争解決手続のうち,民間事業者の行う和解の仲介(調停,あっせん)の業務について,その業務の適正さを確保するための一定の要件に適合していることを法務大臣が認証する制度を設けること,(4) (3)の認証を受けた民間事業者の和解の仲介の業務については,時効の中断,訴訟手続の中止等の特別の効果が与えられることを主な内容としています。

 この中で,目玉となる認証制度は,裁判外紛争解決手続のうち和解の仲介の業務を行う民間事業者について,その申請により,法務大臣が,ADR法の定める一定を満たすことを認証するものであり,認証を受けた民間事業者(「認証紛争解決事業者」といいます。)には,(1) 認証業務であることを独占して表示することができること,(2) 認証紛争解決事業者は,弁護士又は弁護士法人でなくとも,報酬を得て和解の仲介の業務を行うことができること(弁護士法第72条の例外) (3) 認証紛争解決事業者の行う和解の仲介の手続における請求により時効が中断すること(ただし,和解の仲介の手続終了後1か月以内の提訴が条件となります。),(4) 認証紛争解決事業者の行う和解の仲介の手続と訴訟が並行している場合に,裁判所の判断により訴訟手続を中止することができること,(5)  離婚の訴え等,裁判所の調停を得なければ訴えの提起ができないとの原則のある事件について,(認証紛争解決事業者の行う)和解の仲介の手続を経ている場合は,当該原則を適用しないことなどの特典があります。しかし,一方で,認証紛争解決事業者は,業務の内容や実施方法に関する一定の事項を事務所に掲示すること,利用者たる紛争の当事者に対して,手続の実施者(調停人,あっせん人)に関する事柄や手続の進め方などをあらかじめ書面で説明することが義務付けられ,また,法務大臣は,認証紛争解決事業者の名称・所在地,業務の内容や実施方法に関する一定の事項を公表することができるものとしており,これらにより,国民に対して選択の目安となる十分な情報が提供されるようになります。


ADRについての情報を
ADRは,うまく利用すれば,紛争解決にとって有用な制度といえましょう。それだけに,ADR法の施行によって,ADRの認知度が高くなることが期待されます。そのため,前記のような法務大臣による公表制度等が重要な機能を果たすでしょうが,それにもかかわらず,紛争の性質や紛争当事者の求めるものとのミスマッチなどは心配されるところであり,そうしたことができるだけ少なくなるように,利用する国民の皆さんが,ADRの詳細な情報を得ることも重要と思われます。現在では,「ADR Japan」というADR(裁判外紛争解決)のポータルサイトも生まれています(http://www.adr.gr.jp/adr_towa.html)。こうした情報媒体をいろいろ利用するのが,賢いADRの利用方法といえるでしょうね。
(平成19年4月)