● Judgeの目その11 法テラス
  
〜動き出す日本司法支援センターへの期待

浅見 宣義(大分地方裁判所) 

「法テラス」は愛称
 「法テラス」は、トラブルの解決に必要な情報やサービスの提供が受けられることを目的とする総合法律支援法という難しい名前の法律によって,今年(平成18年)4月に設立される「日本司法支援センター」の愛称です(業務開始は10月です。)。その愛称には,「法で社会を明るく照らしたい」「陽当たりの良いテラスのように皆さんに安心してくつろいでいただけるような場所にしたい」との願いがこめられているようです。法テラスは、東京に本部を置き、少なくとも全国の都道府県庁の所在地等の計50か所に事務所を設置するほか、弁護士や司法書士がいないなどの理由で法律サービスを受けることが難しい地域などに事務所を設置する予定であるとされています。(以上は政府公報からです。)。

 「法律」「司法」「裁判」というだけで拒絶反応をする人もおられると思いますが,社会の高度化,複雑化等によって,法的な紛争に巻き込まれる人は多くなっていますから,つてや情報がないために法律で守れられていることを知らず,泣き寝入りをする人たちを減らし,どんな人にでも,法の光がさんさんと注ぐような社会にしたいという意味が入っているのだと思います。ロゴマークも決められましたが,太陽の傘をモチーフにしたマークで,上記の愛称の意味を視覚的に表しているものなのでしょう。


隔世の感あり
 「法テラス」の意味を聞かれると,「そんなもの,国の責務として当たり前ではないか。」と感じる方もおられるでしょう。しかし,私のように,司法に携わってきた者からすると,このようなものができるのには,感慨深いものがあります。私は,昔(平成5年),判例時報という法律雑誌に,「裁判所のイメージアップのために〜裁判所CI作戦」という文章を載せていだだきました。その論旨は,簡単にいうと,裁判所をもっと市民に身近で使いやすくするために,ロゴマークや案内板,それに情報媒体などを使って,裁判所のイメージを上げようというものです。当時は,法曹界でびっくりされたものですが,その後,民事訴訟改革や司法改革の影響もあって,裁判所は,市民に身近な存在であるように,情報発信を初めとしてさまざまな手を打ってきましたし,裁判も使いやすいように改善が積み重ねられてきました。有名な中坊弁護士が,「2割司法」を打破しようと提唱されて以来,弁護士会も,市民のためのさまざまな制度を作り上げてきました。そして,今回の法テラス創設は,色々な流れが集大成したように見えるところがあります。しかも,「あまねく全国において,法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現する」(総合法律支援法2条)ために,「国」に責務を負わせている(同法8条)のです。

 少し昔を知っていると,「神は自ら扶く(たすく)ものを扶く」という言葉に似て,法律の恩恵を受けようと思ったら自助努力をしなければならないという感覚が司法に携わっている人たちには強かったと思います。また,社会では,法律による解決よりも,義理人情やさまざまな指導等による解決が多かったように思います。このため,法的サービスの提供に向けて,国が乗り出すというのはほとんど考えられませんでした。資力の乏しい人への支援である法律扶助の制度も,その予算がとても少額でした。それが,今や国を挙げて支援センターを作ろうというのですから,隔世の感があるわけです。


スタッフ弁護士への期待
 法テラスは、主な業務として,(1) 情報提供(窓口,電話,インターネットなどで、法的トラブルの解決に役立つ法制度などの各種情報を無料で提供。弁護士会、司法書士会、地方自治体などさまざまな相談機関の中で、最も適した相談窓口の紹介等),(2) 民事法律扶助(資力の乏しい方に、無料法律相談の実施。弁護士などの裁判代理費用、書類作成費用の立て替えなど),(3) 司法過疎対策(弁護士や司法書士がいないなどの理由から法的サービスを十分に受けられない、いわゆる司法過疎地域において、法的サービスの提供),(4) 犯罪被害者支援(犯罪被害者の援助に精通している弁護士や専門機関の紹介など),(5) 国選弁護関連(国選弁護人を迅速かつ確実に確保し、捜査から裁判まで一貫した国選弁護体制を整備)を行うようです。(以上政府公報から)。

 その一つ一つが重要ですが,私が注目しているのは,こうした業務を支える「スタッフ弁護士」の存在です。日本版の公的弁護士,公益的弁護士とでもいいましょうか。これに,若い弁護士が何人も応募しているのです。日本弁護士連合会のホームページにその実情が紹介されています。応募,養成,内定中の弁護士及び司法修習生は,合計で数十名のようですが,全国で300名が必要という数字もあるようであり,今後どんどん増えていくと思います。「そんなところに就職したら,弁護士の自主独立の精神に反する」という意見もあるかもしれませんが,また一方で,業務だけでなく,社会のための公益的な活動を当たり前と思う弁護士も増えるのではないかとを期待しています。そして,裁判所の現場で,若い司法修習生と接している立場で述べますと,世間で,若い人に投げかけられる批判,例えば,人との接触が下手だとか,自分勝手だとか,金万能主義だとかの批判がどうなのかと考えることがよくあるのです。つまり,今の時代でも,やはり,若者なりの正義感を持ち,社会のためにがんばりたいという人はそれなりに多く見かけるのです。そんなに捨てたものではないと心強く思っています。そういう人たちに,是非司法センターのスタッフ弁護士になって社会に貢献してほしいと思います。いい経験ができるのではないでしょうか。そして希望があるなら,スタッフ弁護士経験の後に弁護士任官で裁判官にもなって,そうした公的活動をした弁護士の経験を裁判所内でも是非生かしてほしいと切に思っています。
(平成18年4月)