○ このごろ法曹界にはやるもの・・・
「夜討、強盗、謀綸旨…」ではなく(治安が悪化してきて,同様のものが世の中にはやってきているといえるでしょうが),「法曹倫理」のことです。法曹が守るべき職業倫理といえましょう。といっても,法曹(裁判官,検察官,弁護士)の皆さんでさえ,「そんなにはやっていないよ」と言われるかもしれません。
でも,「法曹倫理」に関する専門書は徐々に増えつつあります。また,法曹養成機関である法科大学院や司法研修所ではカリキュラムに取り入れられています。弁護士会で作られていた「弁護士倫理」も「弁護士職務基本規程」として新たに制定され,内容も充実しています。既に法曹になっている人は,「え,自分のころは,大学や司法研修所で,法曹倫理の教育など大してやらなかったのだけれどなあ」という感想を持たれるのではないでしょうか。そうです,これはつい最近の動きなのです。
○ 平成司法改革の隠れた申し子です
「弁護士の不祥事がよくあったので,法曹倫理が強調されているのではないか」という意見を言われる人があるかもしれません。不祥事が無関係とはいえないと思うのですが,もっと直接には,平成司法改革の影響故に現れた現象だと思います。平成司法改革の基本文書である司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日)は,「プロフェッションとしての法曹」を「質と量を大幅に拡充」することを謳っていています。これは,司法制度を支える法曹の抜本的改革を目指したもので,質が高く大量の「プロフェッション」として,国民から信頼を得ていくために,法曹が職業倫理をもって自己規制することの必要性につながっていきます。たとえ高度な専門知識や専門技術を身につけても,公共精神や高い倫理観がなければ,国民から信頼性が低くなるのは見やすいことです。こうした意味で,平成司法改革は,法曹に「法曹倫理」の重要性を突きつけたともいえるのです。そのために,法曹を目指す人たちに,法曹倫理を教える努力が本格的に始まっています。「先輩,こんな倫理も知らないのですか」と言われないように,私達「旧法曹」は心しなくてはいけないのかもしれません。
○ 裁判官倫理とは?
わが国では,法曹倫理の中で,弁護士倫理が最も研究及び明文化が進んでいます。裁判官倫理についてはそこまでいきません。必要性が乏しかったのかもしれません。アメリカ合衆国においては、裁判官の給源として、法曹一元の制度が採用されており、弁護士が多様な活動を行い、各方面の人的な関係を築き上げた後に裁判官に就任することになるため、裁判官に明文で倫理を定めてガイダンスする必要は大きく,アメリカ法曹協会による「裁判官行動に関する模範綱領」や、司法会議による「合衆国裁判官行動綱領」が詳細に裁判官倫理の内容を定めています。日本では,そこまでの規程等はありません。いずれにしても,裁判官の本来的職責からして,裁判実務を独立して、中立公正に、そして迅速適正に行う義務が抽象的には裁判官倫理の中心になるのですが,こうした倫理の具体的適用は,各国の裁判制度の違いや法曹の意識及び国民意識が異なれば,現れ方が異なり得ますから,アメリカの規程をすぐ持ってくるわけにもいきません。そこで,数少ないながら,日本での過去の議論や実際に問題になった事例,裁判例を追うのが最も近道のように思います。日本の法曹や裁判官制度の歩み,悩み等を知ることもできます。また,法曹倫理教育を巡る最近の動きをみると,これから日本の裁判官倫理の内容を豊かなものにする兆しがあるかもしれません。裁判官の信頼を高めていくために,裁判官倫理の内容を深めていくことは重要であり,決して「変」なことではないのです。
手前みそながら,私も,日本での過去の議論や実際に問題になった事例,裁判例を追いながら,法科大学院用のテキストを執筆しています。「法曹の倫理と責任(下)」(現代人文社)の「第16節 裁判官の倫理」のところです。関心のある方は是非手にとって下さい。そして,ご意見ご批判をいただけたら幸いです。
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