● judgeの目その1 「コートオープンデー」
浅見 宣義 (大分地方裁判所判事) 
 私の所属する大分地方裁判所で,去る6月22日,「コートオープンデー」と題する市民向けの行事が開催された。内容は,刑事の模擬裁判,少年事件に関するビデオ上映,展示コーナー等である。刑事の模擬裁判は,市民から募った裁判官役,検察官役,弁護人役が,裁判所の作ったシナリオに従って,実際の法廷を使い,刑事裁判の手続を模擬体験するものである(因みに,被告人役は裁判所職員である。)。参加された市民の皆さんのほか,報道したマスコミにもとても好評であった。同様の催しは,各地の裁判所で行われつつあるので,読者のみなさんも,是非身近な裁判所に問い合わせをして,企画があれば足を運んでいただきたいものである。

 ところで,私は,当該模擬裁判を,いつもの法壇ではなく,傍聴席に座って拝見した。参加された市民の皆さんが一生懸命演技されているので感心したが,それ以上に,裁判官役の方が裁判所から借りた法服を着て,法壇に座り,傍聴席と法廷を分けるバーと呼ばれる仕切りの内側(法壇のある部分)に,検察官役や弁護人役の市民のみなさんが沢山入っている(各役はそれぞれ3人ずつ配置されていた。)ことに,感慨深いものがあった。最近よく話題になる裁判員制度が,予定どおり約5年後に始まればバーの内側に市民が居並ぶのは自然のことになってしまうが,バーの内側に,被告人や訴訟当事者ではない人が入ることは,少し前までほとんど考えられなかったことである。今から10数年前に,当時の北海道大学教授の木佐茂夫さんが,「ドイツでは,裁判手続が終わった後,法廷の椅子等を片づけて,市民がその部屋を利用していろいろな企画をしている。」といったレポートをされたが,それを読んだ私などは,「日本には果たしてそんな時代が来るのかな」と思えたものであった。当時は,実際の法廷を使って市民を交えて模擬裁判をするなど100パーセント考えられなかったし,そもそもの発想になかったというのが正直なところである。

 今回の平成司法改革は,様々に裁判所の有り様を変えていくものと思われる。日常の些細なことでも,平成司法改革の意味がじわっと出てくる場面は多々あるものと思われる。そんな司法の変化を,司法の現場にいるものとしてできるだけレポートしていきたいと思っている。