裁判官制度のうえで史上初の裁判官人事評価書の開示制度がこの9月に実施されました。これまで人事の秘密というはっきりしない名目で,非公式に作成され,評価される者自身にも全く知らされることなくベールにつつまれ,いろいろな憶測やあらぬ噂の根源ともなっていた裁判官の評価について,評価書の作成義務化,その作成に当たって必ず本人の意見を聴取すること,評価書の開示請求や不服申立の手続等が最高裁規則により定められたのです。
そこで私もおそるおそる開示請求をしてみました。なにしろ初めての体験だけにいささか緊張したというのが実感です。すると翌日にはA4一枚の「評価書」というペーパーが届けられました。事件処理能力,組織運営能力,一般的資質・能力の3項目に分けられ,各4行程度に簡潔にまとめられた評価が記載されていました。その内容は,いわばあたりさわりのない表現に終始しているというものでした。本人に開示が予定されているため,そのような内容になることはある程度予想されたこととはいえ,ほっとするような,拍子抜けするような結果でした。おそらくほとんどの裁判官に対する評価書が平均点をつける内容になっていると思われます。
それにしても,これまで法的根拠がないまま秘密裏に行われていた裁判官評価がこのように透明化されたことは,大いに評価すべきことだと思います。多くの裁判官に平均点がつけられるのはある意味で当然ともいえることですし,平均点の場合少なくとも再任時に諮問委員会で問題とされない,という意味では有用性があるといえます。すなわち多くの裁判官にとって再任問題に気を遣う必要がなくなった点で安心感を与える制度といえるでしょう。
しかし今回の評価書は,このような内容である限り,現在行われているような昇給やポスト指定,転勤等の資料となり得るとは考えられません。このような裁判官の重大な関心事については今も,どこで,誰が,どのように決定しているかは不透明なままです。この点をどう改革すれば裁判官の独立に寄与できるかについて,裁判官ネットワークとしても真剣に考えるべき研究テーマとして残ったことになります。
|