● 夫婦,家族の変遷と家庭裁判所の役割
下澤 悦夫(岐阜家裁)  
 家庭裁判所はその名の示すように家族,家庭に関する諸問題とその家庭内で育てられる児童,少年の問題を専門的に取り扱う裁判所として1949年1月に創設された。

 新設された家庭裁判所が対象とする家族,家庭は,その前年の1月から施行された新民法親族相続編の規律するところであり,それ以前の家族,家庭とは全く違ったものである。旧民法では家父長の支配する家族が社会の基礎単位となっていて,その家族の中では妻や子どもは家長に絶対服従すべきものとされていた。これに対して新民法における家族,家庭は,個人の尊厳と両性の本質的平等の理念に基づく男女の合意によって成立した結婚に基礎を置くものとされたのである。この一夫一婦制による結婚を基本としてその夫婦間の未成熟子を加えて家庭を構成するものであり,これが核家族と呼ばれるものである。

 この核家族は夫が家庭の外に出て労働に従事し,妻は専業主婦として家事,育児に従事するという形のいわゆる性別役割分業を伴うものであった。このような家庭における夫婦の不和が離婚という結果を招来すれば,職業を持たない妻を路頭に迷わすことになる。妻は夫婦間紛争の弱者とされ,家庭裁判所は家事調停をとおしてできる限り夫婦を和合させ,離婚を阻止することに努めた。このようなやり方で妻を守ることがその主たる役割であると考えていたのである。

 ところが,1980年頃から経済的,社会的変化に伴い核家族の基礎が揺らいできた。女性の就業人口が増大し,妻が家事,育児に専従するという性別役割分業の構造が崩れてきたのである。有職の妻は仮に離婚しても生活に困らないようになった。そのために婚姻関係における女性の権利主張も積極化し,結果として離婚率も高まってきている。このような状況は,ただ夫婦の離婚を阻止するというだけでは,家庭裁判所はその役割を果たすことができなくなってきていることを示しているのである。

 復元することが困難な夫婦関係であればこれをできるだけ平和的に解消させること,家庭の解消によって重荷を負わされる子どもに対して適切な保護的措置をとることが,今や家庭裁判所の重要な役割となってきているのである。

(平成16年9月)