● ジェンダーバイアスについて
大阪花子  
 離婚事件を担当していて,ジェンダーバイアスについて改めて考えてみたいと思い,少し古いが,平成14年3月に開催された日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会シンポシウム「司法における性差別ー司法改革にジェンダーの視点を」の基調報告書を読み返した。

 ジェンダーバイアスということばに耳慣れない方もおられると思うが,ジェンダーバイアスとは社会的・文化的に形成された性差別と定義づけられる。

 平成11年6月男女共同参画社会基本法が施行された。これまでの歴史の中で,男女平等の実現に向けた活動がなされてきたが,やっと基本法が制定されるに至ったというところである。
 しかし,現実は,未だに男女の役割の固定化,性差別が行われている。女性らしさ・男らしさとは,一体何であろうか。生物的性差から発生する違いを超えて社会的に形成された性差が依然もっともらしく言われている。

 ジェンダーバイアスをなくすには,社会構造を規定する法の中の性差別,性支配の見直しとともに司法制度からもジェンダーバイアスの除去等の取り組みが必要である。

 基調報告書は,ジェンダーバイアスにより,裁判における事実認定,事実評価,分析の過程,その結果として判決に,また公平であるべき調停手続の進行と結果に歪みが生じている例が多数存在するとする。

 われわれ裁判官は,ジェンダーについて,体系的に研究する機会が与えられているわけでもなく,法と良心に従って,女性に関する紛争を判断することになる。そのために,その人のものの考え方が,判断に影響することが免れないのではないかと危惧するのは私一人であろうか。

 例えば,離婚事件で,正当な理由のない性交渉の拒否が離婚事由になるというが,そこで,言われる正当な理由とはいかなることがらを意味するのであろうか。結婚したならばば,妻は,性の自己決定権さえ失われ,夫の言われるままに性交渉に応じなければならないのであろうか。

 また,配偶者の暴力による離婚についても,時には,一方配偶者(通常は夫が多い)による暴力が,他方配偶者(通常は妻が多い)の言葉による暴力により誘発されたものであるとか妻の側に問題があると堂々と主張され,発言されることあるが,全くの第三者であれば口論から暴力を振るった場合には,被害者に落ち度があるとしても暴力を振るった者が責任を問われることがあるのに,夫婦であれば,多少の暴力が許されるのであろうか。

 基調報告書では,離婚調停で,調停委員から,夫の暴力や浮気を女性だから我慢しなさいと妻の言い分を理由のないものと制止する者もいたという。

 このようなジェンダーバイアスを司法の中から排除するために,われわれはもっと積極的にジェンダーバイアスの問題を取り上げる必要があるのではないか。最近つくづくジェンダーバイアスの問題の深刻さを感じずにはいられない。
2004年7月20日