● もうすぐあなたも裁判員に 裁判員制度をわかりやすく説明するコーナー
安原 浩(広島高裁岡山支部) 
1 裁判員制度って何

巷ではあまりうわさになっていませんが,約3年半後に本格始動するための準備が着々と進んでいる大改正が裁判員制度というものです。われわれ裁判官にとってもペリー提督の黒船が現れたときのサムライの心境のような驚きです。つまり諸外国にはすでに似たような制度がたくさんあり,知識としては知っていましたが,実際に日本で実施するのはもっとずっと遠い先のことと我々自身も思っていたからです。

 この制度は,マスコミや世間が強い関心を持つ殺人や強盗殺人,放火というような非常に重い罪の裁判に,選挙権を持つ20歳以上の一般市民から無作為抽選で選ばれた6人が裁判官として法廷に座る(ただし,プロの裁判官の着ている黒い法服は着ません。普段着でかまわないことになります。)ということです

つまり法壇の上に3人のプロの裁判官と並んで座るということになります。ということは,選挙権を持っている人なら誰でも法壇に座ることになる可能性があるということになります。

 しかし,プロの裁判官も驚くぐらいですから,一般の方がこの制度を知らない,よくわからない,不安だというのはむしろ当たり前です。

 裁判所,検察庁,弁護士会はこれから制度の周知と理解を求めて,協力して大キャンペーンをするべく準備をしております。

 日本裁判官ネットワークのホームページをご覧の皆様には一足先に,この制度の意義や概要について以下の項目に分けてわかりやすくご説明することにしたいと思います。ご質問にもできるだけお答えしたいと思います。どうかご期待下さい。

2 今の刑事裁判とどこが違うの

今の刑事裁判はプロ用になっています。証人の証言や被告人が取調室で警察官に述べたことなどの信用性は,裁判官が証言記録や供述調書を手元に置いてあちこちひっくり返しながら比較検討して判断するシステムになっています。ですから,法廷で難しい法律用語などが飛び交っても,裁判官に判ればいいわけですし,また速記録や供述調書などの記録さえあれば,あとでじっくり考えることができるので,証言が何時間にわたって行われても記憶が曖昧になることもなく特に急ぐ必要もあまりないことになります。私たち刑事担当の裁判官の主な仕事は記録をじっくり読み込むことといっても過言ではありません。

 しかし,そんなことを法律職以外の選挙民から選ばれた,しかも他に仕事や家庭を持った忙しい6人の裁判員にしてくださいとのいうのは無茶です。

 そこで裁判員の参加する裁判では,「読む裁判」ではなく,わかりやすさ優先の「見て聞く裁判」,すなわち「ビジュアルな裁判」になるわけです。

 勿論,起訴状や検察官,弁護人の主張を書いた書面など読むこともすべて無くなるわけではありませんが,それらも誰にでもわかりやすい言葉で書くことになりますし,ビデオや写真,模型などを多用して,視覚的にわかるように説明がなされます。またなによりも大切な証人や被告人の供述は重点的に短時間にすませて,争点といってその裁判で一番問題となっているテーマについて誰にでもすぐに判断ができるように運用されます。

 つまり裁判員裁判は,法律や犯罪に素人の裁判員が6人も入る訳ですから,法壇に座って見て聞いておれば,誰にでもそれなりに判断ができるようなシステムになるという点で,今の裁判のイメージを大きく変える大改革なのです。(つづく)

3 なんでそんな制度が必要なの
4 法律が判らなくても大丈夫?
5 裁判員になったらどうしよう?
(平成17年10月)