● いくつかの意見
刑罰の目的は  20歳代,男性,学生
 竹内裁判官の練馬模擬裁判体験を読みました。「刑罰の目的と本質」に関しての発言で難航したとありましたが実際の裁判員裁判が始まれば一般市民にとって普段係わり合いのない「刑罰」って何?と、言う疑問は、自然と沸いてくるものではないでしょうか? 「刑罰」の目的も分からずに、評決で「懲役5年6月」とか「無期懲役」まして「死刑」って言えますか。「刑罰の目的・本質」や「量刑の基準」などを国民へ知らせることが非常に重要ではないでしょうか。


こんな人が裁判員では  40歳台,女性,東京都,自営業
 裁判員制度について、色々な意見を読ませていただいています。国民の70%が同制度に消極的とのページも拝見し、私もその70%の中に属する者です。無作為に選ぶと言う方法自体が私の中では反する意見があります。例えば、先日、某裁判所の喫煙室で耳にした話ですが、おそらく話の内容から建築業関係の方であると推察できます。その一部を記載します。
A: 「大丈夫かな?」
B: 「平気だよ、今までとおり、あることないことぺらぺら言って、最後に判決でたら、その足で破産宣告して損害賠償払わなきゃいいんだから」
・・・・・驚きです。
仮に破産宣告をしなくても、こんな人たちでも無作為に選ばれてしまう裁判員制度というものが少し怖い気もします。


土,日に開廷できないか  40歳代,男性,神奈川県
 裁判員制度について、若干の意見と疑問点があります。

 まず第一に、公判が行われる曜日と時間などについて。
 ここに意見を投稿するくらいですから、私は裁判員制度に興味や関心がありますし、万一裁判員に選ばれたなら、素人の眼で、精一杯努力するつもりです。最高裁も、この制度を周知させるため、これからさらに広報活動に努めるでしょう。しかし、世の中はそれほど甘いものだとは思えません。仕事の都合、育児や保育の都合等、法的に認められにくい理由で裁判員になることに難色を示す方が多くなると予想できます。そこで、現職裁判官や刑務官等の方々にはご苦労をかけますが、土曜、日曜日の開廷や夜間の開廷について考慮される余地はないでしょうか?また、保育施設の設置などに便宜を図っていただけることはできないでしょうか?

 次に上訴について。
 裁判員が関与する裁判でも上訴権はあるのでしょうか?
たぶんあると思うのですが、「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加」しても、その結論が職業裁判官のみで審理される上級審で否定されると、制度そのものの意義に疑問が生じます。三審制とのかねあいがあるとは思いますが、裁判員制度の趣旨が尊重されるような上訴制度の構築はできないのでしょうか?


評議についての懸念  40歳代,男性,公務員
 裁判員制度の施行に向けて,さまざまな準備が進んでいる。ハード面でいえば,大阪地裁と東京地裁には,既に裁判員用の法廷が整備された。ソフト面でいえば,難しい法律用語(未必の故意,自白の任意性など)を日常用語に置き換える作業が進められている。また,広報面では,標語やタレントの長谷川京子を起用したインターネット上のバナー広告が注目される。

 いまさら説明するまでもないことだが,裁判員制度は,市民から選ばれた裁判員と職業裁判官が協働して事実認定や量刑を行う刑事裁判の仕組みである。これまで,職業裁判官だけで構成されていた裁判体のなかに,法律の素人である一般市民が6人も参加するのであるから,この評議をどのように進めていくのか。これが非常に興味深いところである。

 話は変わるが,マンションで暮らしていると何年かに一度,管理組合の役員というものをする羽目になる。裁判官のほとんどは官舎で暮らしておられるので,馴染みがないかも知れないが・・・・。
 実は,私もマンション暮らしなので,その管理組合の役員をやらされることになった。これは私にとっては非常に,新鮮でよい経験になった。

 法律的にいうと,マンションというのは,区分所有建物であり,マンション暮らしの私は専有部分の区分所有権を有する区分所有者なのである。そして,区分所有者は,当然に,管理組合の構成員となるのだ(区分所有権法)。法律関係の仕事をしている以上,少しは管理組合のお役に立てるかも知れないと思い,これを機会に,区分所有権法やマンション管理適正化法,マンション標準管理規約などを勉強してみた。すると,自分が暮らしているマンションの様々な問題がまるで薄紙を剥がすかのように明らかになってきた。

 私は,理事会で自分の気付いた法律上,経理上の問題点を他の役員にできるだけ丁寧に説明し,問題解決の方策を検討しようとした。しかし,当然のことながら,役員全員は,順番だからというのでしぶしぶ役員になったという人たちであり,見事なまでに「やる気」がない。むしろ,迷惑そうな顔をしている。小さい子どもがいるから無理といって,初めから理事会に出てこない人もいる。
 そして,役員はほぼ全員,マンション管理について,基本的な知識すら有していない。管理費と修繕積立金の区別も出来ていないし,共有部分と専有部分の違いも判っていない。当然,管理規約など読んだこともない。面倒なことは全部,管理会社がやってくれるものと思っている。その管理会社がいい加減なことをしているから,いろいろな問題が生じているのだが,そのことを説明しても,ただ感情的になるだけでそこから先に進めない。どういうことをするのに,どういう手順を踏めばよいか,規約や法にもとづくとどうなるのか,これを理解してもらうのは至難の技である。

 私は理事会に参加しながら,これは・・・・,ひょっとすると裁判員制度が施行された後の評議の姿かも・・・と考えた。

 くじ引きにあたって仕方なしに選任される裁判員。順番だから仕方なしに引き受ける管理組合の役員。刑法も刑事訴訟法も読んだことのない裁判員。区分所有法も管理規約も読んだことのない管理組合の役員。まったく接点のない赤の他人どうしの裁判員。同じマンションに住んでいても挨拶程度しかしたことのない人どうしの役員。犯罪事実の認定と量刑という重責を担っている裁判員。長期修繕計画とマンション管理という責任を担う役員。

 管理組合の役員をやってみて痛感したのは,ごく普通の市民は皆,日々の生活に忙しく,関心のないことには極めて冷淡であるということだ。たとえそれが自分たちの暮らすマンションのことであってもそうなのだ。ましてや,新聞や週刊誌でしか見たことのない凶悪事件のことに,どうして関心など持てようか。悪い奴はさっさと刑務所に行って貰えばよいと考えることをどうして止められよう。

 裁判員制度の施行に向けて,模擬裁判を行うのは結構なことだと思う。しかし,模擬裁判で裁判員を勤めるのは,素人ではない,セミプロばかりだ。いくら一般市民が参加しているといっても,その市民は,きわめて市民意識の高い,ある意味では偏った人たちだと思う。そういう裁判員を相手に模擬裁判を行ったり,評議をしてみてもあまり実践的ではないだろう。

 裁判員制度の評議の予行演習として,裁判官に難しい問題を抱えたマンション管理組合の役員になってもらうというのはどうだろうか。一般市民の議論を知るうえで,得られるところは大きいと思う。
(平成18年2月)