● 外国人被告人の事件について思うこと

くまちん (サポーター)

 裁判員裁判を機に,刑事裁判における通訳の正確性の問題がにわかにクローズアップされ始めた。通訳の仕方により,言葉のニュアンスは大きく異なり,そのことが裁判に影響する危険性は,裁判員裁判で公判中心主義の審理になった場合,一層大きい。遅ればせながら,裁判所の中にも問題意識が生じ始めたことは,一歩前進ととらえたい。
 さて,この話題に関連して,私がふと思い出したのは,裁判官時代に民間企業へ一時研修に行っていた時代に見聞した話である。その会社のある部門では,フィリピン人の方と接触する機会が多かったのだが,注意事項として以下のようなことを言われた。日本人は同僚や部下を励ます際に肩を叩くことが多いが,フィリピン人の方にそのような行為は絶対にしてはいけない,なぜなら,フィリピンでは人の肩を叩くのは相手を侮辱する行為だから,というのである。
 なぜこの話を思い出したかというと,外国人被告事件においては,言葉のニュアンスの正確性もさることながら,その国特有の文化や習慣の問題を見落とすと,大きく判断を誤ることも起こりかねない。
 例えば,フィリピン人の被告人が「いきなり肩を叩かれたので,頭に来て犯行に及んだ」と述べた場合に,上の様な背景文化・習慣の話を知らなければ,我々の被告人供述の受け取り方は大きく変わりはしないだろうか。
 もちろんそんなことは,通訳の問題というよりも,弁護人が調査して主張すべきことではあるのだろうが,弁護人のできることには限界がある。そういう意味で,外国人事件(特に重大事件)については,弁護側で通訳の正確性をチェックするとともに文化背景に遡った助言ができるようなスタッフが必須であると思う。裁判所にはそうした補助者が法廷に同席する必要性を理解して貰い(現状では否定的な裁判体が多いようであるが,検察官の横に検察事務官が殆ど常に補助者としていることとの均衡も考えて欲しい。),法テラスあたりにそうした補助者のネットワークを形成していただけるとありがたいのだが。