● 私の「家庭裁判(隔)月報」(3)
竹内浩史(さいたま家裁川越支部・飯能出張所)
(自判解説)
私が勤務する裁判所は、管内にその分野の手術のパイオニアとして著名な大学病院があるためか、「性同一性障害」に関係する審判事件が目立つ。
もっとも、「性別の変更」の申立てについては、特例法が明確に規定している要件の充足を検討すれば足りるから、判断は比較的容易であり、書面審理で足りることも多い。問題は、それに先立つ「名の変更」、つまり男性らしい名に、あるいは女性らしい名に変更したいという申立てである。
決して多くはないが先例が重ねられており、通常の名の変更で要求される「永年使用」よりは相当短い期間の使用実績でも、既に数件許可した。
ただし、正式に法廷で審問を開き、本人と対面して慎重に事情を確認している。
そして、審判書にも下記のような一般論を示した上で、比較的詳細かつ具体的な認容理由を記載するよう努めている。

(審判抜粋)
当裁判所の見解は,以下に掲げる先例となる裁判例(家庭裁判月報52巻7号の東海林保「いわゆる性同一性障害と名の変更事件,戸籍訂正事件について」で引用されている。)と同旨である。なお,その後に,「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が平成16年7月16日から施行されていることも十分考慮されるべきである。
 ア 性同一性障害が問題となる場合には,性同一性障害の程度と通称使用の程度を相関関係的に判断して上記「正当な事由」の有無を判断するのが相当である(大阪家裁平成10年12月1日審判)。
 イ 性同一性障害を有する者の戸籍上の名を,その身体的生物学的性を表象するものから,その心理的社会的性を表象するものに変更することは,その者の社会参加,社会生活の障害を除去するものとして,上記「正当な事由」にあたる(京都家裁平成11年6月21日審判)。
 ウ 名は戸籍上の性別と全く無関係とはいえないとしても,両性に通用する名もあり,名によっては性別が判定しえない場合も多いと考えられるから,一般的に性別を表すとみられる名の特徴と戸籍上の性別が必ず一致しなければならないものではない(大阪高裁平成9年2月26日決定)。
(平成21年10月)