● 私の「家庭裁判(隔)月報」(2) |
竹内浩史(さいたま家裁川越支部・飯能出張所) |
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(自判解説)
このところ、家裁で最もホットな話題と言えば、嫡出推定の問題である。
父無し子がなるべく生じないようにするという民法772条の立法趣旨は、かつては合理的なものだったと思う。しかし、世の中も変わり、DNA鑑定が飛躍的に進歩した現代においては、「離婚後300日ルール」は、あまりにも窮屈に感じられる。最高裁も、ホームページでは認知調停の活用というアイディアを提示している。少なくとも、全当事者が合意し、DNA鑑定も一致した結果を示している場合にまで、嫡出推定規定を盾に退けるのは、何の合理性も見出だせないと思われる。「児童の権利に関する条約」7条1項は、児童は「できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」と規定している。ここで言う父母が、育ての親ではなく生みの親であることは自明と思われるので、初めて条約を引用させていただいた。
(審判抜粋)
(第1事件)親子関係不存在確認申立事件
(第2事件)認知申立事件
(主文)
1 申立人と第1事件相手方との間に親子関係が存在しないことを確認する。
2 申立人が第2事件相手方の子であることを認知する。
(理由)
1 第1事件及び第2事件につき、調停委員会の調停において、各当事者間に主文同旨の合意が成立し、かつ、その原因事実についても争いがない。
よって、併合して家事審判法23条2項の審判をすることとした。
2 各当事者の戸籍(全部事項証明書)及び住民票、DNA鑑定報告書、並びに申立人の母及び各相手方の審問の結果によれば、以下の事実が認められる。
- 申立人の母と第1事件相手方は、平成2年に婚姻し、3人の子をもうけた。
- 申立人は、平成14年、申立人の母から出生したが、婚姻中であったため、父を第1事件相手方とする子として戸籍に記載されている。
- 申立人の母と第1事件相手方は、平成17年に離婚した。その際、親権者は上記 i.の3人の子については第1事件相手方とし、申立人については申立人の母とそれぞれ定めた。
- 申立人の母と第2事件相手方は、平成19年末ないし平成20年初めころから、現住所で同居して申立人を養育しており、いずれ婚姻する予定である。
- 申立人の母は、第1事件相手方との婚姻中、平成6年ころから不仲になり、間もなく家庭内別居となって、遅くとも平成13年春ころ以降は性交渉もなくなり、平成15年4月ころから正式に別居した。
- 申立人、申立人の母及び第2事件相手方との間で行ったDNA鑑定報告書によれば、第2事件相手方が申立人の生物学的父親である確率は、かなり高い(99.99%)。
3 上記2の事実によれば、本件においては民法772条1項の嫡出推定にかかわらず、申立人は第2事件相手方の子であると認め、第1事件相手方との親子関係不存在確認と同時に第2事件相手方の認知を成立させることが相当である。
4 なお、申立人は、申立人の母と第1事件相手方との婚姻・同居中に出生した子であり、家庭内別居状態であったとはいえ、民法772条1項の嫡出推定を排除することができるかどうか、疑問がないわけではない。
しかし、本件においては、申立人が第2事件相手方の子であり、その反面として第1事件相手方の子ではないことが明白であって、当事者全員がその事実に合致した身分関係を確認することを望んでいる。とりわけ、第2事件相手方は父として申立人を養育することを望んでおり、これは申立人の福祉にも合致することが明らかである。また、申立人の立場から見ても、日本も締約国に加わっている「児童の権利に関する条約」7条1項は、児童は「できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」と規定しているところであるから、民法772条の解釈運用に当たっても、その趣旨は十分に尊重されなければならない。
5 よって、調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、上記1の各当事者間の合意をいずれも正当と認め、家事審判法23条2項により主文のとおり審判する。
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(平成21年8月) |
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