(Aさんの感想文) |
謹啓
紅葉が美しい季節となり,肌寒さを同時に感じることとなりました。樋口和博先生は,いかがお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。
突然,見知らぬ大学生が,偉大な先生にお手紙を送付させていただく無礼をどうぞお許しください。私は,関西の大学院修士課程一回生のAと申します。年齢は22歳で,つい8か月前まで大学生の,まだまだ未熟な学生です。専攻は刑事訴訟法で,C先生のもとで学んでおります。
さて,突然先生にお手紙を送らせていただいた理由は,樋口先生の御著書である「峠の落し文」を石川元也先生から頂戴いたしまして,大変感動したということをお伝えし,経過をご説明したいと思ったからです。
私が初めて「峠の落し文」を知りましたのは,中山研一先生のご紹介文でした。尊敬する先生が大変感銘を受けたとのことを知り,「是非読みたい」と思い,すぐに中山研一先生に御本をお渡しになられた石川元也先生について,インターネットで調べました。すると,日本裁判官ネットワークに,樋口先生のご紹介文を発見し,拝読いたしました。ますます読みたくなったのですが,私は生活費と研究費を老いた両親による仕送りと奨学金でなんとかやりくりしているので,悩みました。すると,石川元也先生のもとに,3冊の御本があり,ゆずっていただけるとあり,すぐに石川先生宛に,未熟者ながら,どうぞ1冊ゆずってくださいと,お願いいたしました。石川先生は,すぐに御本を送ってくださいました。この本が最後の1冊,つまり,私は最後のチャンスをつかませていただきました。本当に,石川先生の御厚意に感激し,本当に幸せだと感じました。
さっそく,御本を拝読いたしました。私は,改めて読む点や大切な点を記載された箇所にふせんを貼るようにしているのですが,御本がふせんだらけになってしましました。つまり,一度読んだだけでは不十分で,機会あるごとに読んで今,学んでいる法律,司法を考えなければならないと思いました。人によって,また,同じ人でも,読む時期によって感想が様々になるように感じましたので,今度何度も拝読させていただきます。現在の,未熟な院生である私の感想を,つたない言葉ですが,3点述べさせていただきます。
第1に,言葉の重みです。特に「おもしろい事件」「今後役立つ事件」という言葉を,私自身も使っておりました。これが,大変情けなく感じ,法律を学ぶ者として,また,様々な人間関係の中で,言葉を大切に,責任もって発せるよう努めなければ,と思いました。本当に,心底反省いたしました。
第2に,頂戴した御本を私だけで,決して独占してはならないと思いました。ですので,私は,一度読んだ時点で,一旦終えることにいたしました。そして,諸先生がた,ロースクール生の方,後輩にまわし,その合間に何度も私は読もうと決めました。石川先生が御本の感想を求めていらっしゃったこともあり,御本と共に感想ノートを渡して「一行でもかまいませんので,お願いします」と述べています。感想文は,一行のものもあれば,大変長いものもありますが,返却して下さる際に,皆,口をそろえて,「感動しました」「もう一度貸して下さい」「ありがとうございました」と述べていらっしゃいます。この感想ノートは,樋口先生や石川先生からご指示いただければ,いつでも至急届けますので,お命じ下さい。
この御本は,現在,来年検察事務官に内定している後輩,大学2年生,D先生,大学院生等をまわっており,なんと,予約待ち10人です。
まだまだ増えそうです。裁判員制度導入間近ということもあり,後には一般人(法律職でない,法律を学んでいない方)の手にも渡ると思います。
この本のおかげで,樋口先生,石川先生,中山先生のおかげで,素晴らしい出会いを頂くことができました。重ねて心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。
第3は,,切り絵の素晴らしさ,そして先生の俳句に感動しました。私は,22歳ですが,両親のため,自分のため,テレビなし,ラジオだけで励んでおります。そのため,NHKラジオの俳句を聴くことが多く,大変興味があります。また,私の趣味が「木版画」でして,御本の中にある「朝顔」の切り絵のデザインの美しさ,技術の素晴らしさに感動いたしました。勉学も趣味も大変励まされました。
本当に,本当に,樋口先生の御本に出会わせて下さりありがとうございました。若輩者ですが,精一杯,一日一日を大切に励んでまいりますことを御約束いたします。
最後になりましたが,朝夕冷えこむ季節となりました。周囲でも風が流行っております。どうぞ,お体をご自愛下さい。
乱文乱筆お許し下さい。取り急ぎ,御礼を申し上げます。 |
謹言 |
2006年10月31日 |
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(石川元也弁護士から) |
石川です。
先日送ったAさんから、7人の人の感想文の写しが送られてきました。
残念なことに、これは、樋口先生と石川にだけ読んでほしい、裁判官ネットワークへの掲載の同意を得ていないというので、載せていただくことができません。ただ私の感想を申し述べます。
中山研一先生のプログから、裁判官ネットワークを知り、そこの掲載されていた石川の「樋口和博さんのこと」を読んで、石川から最後の1冊を入手して、本を読み、その感動を多くの人と共有したいと考えた大学院1回生の女性の感性と行動力に圧倒された思いである。彼女は、10月27日、樋口先生の本に、石川の「樋口和博先生のこと」を付け、感想ノートとともに希望者に回覧を始めた。同じ刑事法教授のゼミに参加している院生、法学部4回生、3回生、そして教授にも、一人1日のペースで回覧しているのである。今日14日、届いた感想文の最後は11月7日付けとなっている。
この女性の熱気に共鳴する多くの感想は、また感動的である。来年法律事務職に就く予定の人、将来の法曹を目指す人たちが、涙しながら読んだというのである、それぞれに、「言葉の重さ」や、「M少年のこと」や「断層」、「叱られる権利」などを挙げながら、結局最後には『裁かれるものは裁きをしている裁判官自身である』という言葉に惹かれ、心に刻んで、よき法曹を目指そうと誓っているのである。私のつたない紹介では、原文の持ち味を到底伝えきれない。
この本の再刊に関わった者の一人として、そして多くの人に読んでほしいと願ってきたものであるが、今回のこの女性の取り組みとその周りの人々の『人と人のかかわり」ほど感動したことはない。 |
(平成18年11月) |
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