● 弁護士任官どどいつ(38)

竹内浩史(横浜地方裁判所)
    下3桁しか 裁量の無い 子どものお使い 以下の人

 今年4月から3年ぶりに地裁の民事訴訟の担当に戻った。あらためて驚いたのは過払訴訟の多さである。交通集中部なのに、交通訴訟を上回る件数の過払訴訟が来る。
 法廷で気掛かりなのは、訴状に名前が載っていない若手弁護士が復代理で来て「和解は請求額から千円未満のカットにしか応じられません。判決して下さい。」と一つ覚えのように繰り返す場面が目立つこと。大丈夫だろうか。

    十万単位の 慰謝料足した 1円単位の 賠償金?

 片や交通訴訟で疑問を抱くのは、損害論が細か過ぎる事案が目立つこと。百円単位の交通費や文書料が相当因果関係のある損害として認められるか否かで激論を闘わす例さえある。
 その一方で慰謝料は基準に準拠して万円単位で算定しているのだから、違和感を拭えない。全体のバランスを欠いているのではなかろうか。基準では入通院慰謝料は一万円単位、後遺症慰謝料は十万円単位になっているのだから、総額も同一の単位で端数処理すれば必要十分だろう。

    1円単位の 分与と誤解 される「2分の1ルール」

 同様の感想は、前任地の家裁で3年間にわたって主に担当した離婚訴訟でも抱いた。財産分与の主張がやたらと細か過ぎるのである。夫婦共有財産を1円単位で列挙した上で「2分の1ルール」に従って1円単位の分与を求める例が多い。
 しかし、預貯金ならばともかく、不動産や自動車などは厳密な評価はそもそも不可能である。財産分与はあくまで家裁の裁量判断事項なのだから、私は概ね十万円単位で端数処理して認容することにしていた。ちなみに、離婚慰謝料は概ね五十万円単位である。

    「精密司法」は 民事もやめて 丸く収める 賠償金

 それでは交通訴訟の賠償金は、どうしたら良いのだろうか。前述のような単位の慰謝料が必ず損害費目に上がってくる人身損害の事案に限ったアイディアだが、最後に加算する弁護士費用を微調整することで、総計を万円単位の認容額に丸めることが可能である。例えば、145万8500円の損害に対する弁護士費用を約1割としながら、14万1500円と算定して、総額を160万円ジャストにするのである。
 そんなことにどんな意味があるのかと思われるかも知れないが、前述のような細か過ぎる損害論はなるべく結論の認容額に影響しないようにして、争点から外していくことができそうだ。
 一見すると精密な審理をしているようだが、実は無用の労力を費やして審理の遅延を招いていたのは、刑事裁判だけではないように思われる。

(2010年8月)