「川柳・狂歌も 捨てがたいけど わたしゃどどいつ ひねります」
この「弁護士任官どどいつ」も記念すべき連載10回目を迎え、前回は末尾に「ふくろう」さんから返歌もいただきました。そこで、今後は皆様からの投句(?)も募集したいと思います。
どどいつは、七七七五が原則。さらに分解すれば、(3+4)+(4+3)+(3+4)+5で作ると語呂がいいと言われているので、ご参考に。
もちろん、短歌・狂歌(五七五七七)、俳句・川柳(五七五)も歓迎です。たぶん、狂歌は、森野判事(「裁判官は訴える!」47頁参照)、川柳は浅見判事が選者(?)を務めて下さると思います。
「独り独りが 悩んだならば きっと正解 たどり着く」
9月末から10月にかけて、靖国訴訟(3高裁)、国外ハンセン訴訟(東京地裁の2か部)と、同一事案に対する判決が割れる例が続いた。これに批判もあるが、憲法が規定する「裁判官の独立」とは、事件に当たった裁判官が独りで悩み抜く事であり、他の合議体の裁判官と相談してはいけないし、ましてやいきなり最高裁に答を聞いてはいけない。その結果、難しい事件ほど、裁判官ごとに答が違う例が生ずる。その時は、上級審で担当した裁判官が、更に悩み抜き判断を統一する。裁判はこうして正解に近付く。
「合議事件の 名判決は 裁判長の ものかしら?」
陪席裁判官を務めていて変だと思うのは、合議判決があたかも裁判長の単独判決のように報じられてしまう事である。もちろん、誰々「裁判長」と報じられるので合議判決である事は分かるが、陪席の名は記されない。朝日新聞はかつて書いていたが、やめてしまった。世間が裁判長の意見に違いないと思い込んでいる反映だろう。誤りは雑誌にも多い。例えば今年9月30日の大阪高裁判決について、週刊新潮10月13日号の記事は、「靖国参拝」を違憲とした高裁裁判長の「陶酔判決」前科、とタイトルを付けていた。
「それにつけても お菓子はカール ならば蛇足と 分かるけど」
今年は井上薫判事の著書「司法のしゃべりすぎ」等の話題が続き、「判決理由の過不足」論が盛んである。同判事の見解は、主文を導く必要最小限の理由以外は、蛇足だから書いてはいけないというもののようだ。しかし、実際に判決を書いてみると、それでは紛争の解決を示したことにならない場合があり、本当に蛇足かどうかもそんなに明白ではない。私は、最大の論争点については必須でなくても判断を示すようにしているし、何が解決の支障になっているかまで書く方向で試行錯誤中である。
「ベートーベンも ニッポンジンも 広めたいのは 第九です」
10月2日、横浜弁護士会の毎年恒例「弁護士フェスタ」を覗いてみた。ステージには、小山内美江子さん(脚本家・「JHP・学校をつくる会」代表・「9条の会」)の講演や、弁護士も出演するコント「もしも憲法がなかったら…」の前座で、若手弁護士たちの「歌う9条の会(甲斐)バンド」が登場。1曲目はBEGINの「島人ぬ宝」を憲法第9条の替え歌にしたもので、替え歌好きの私も唸る傑作だった。そういえば、これから年末にかけて「第九」を合唱する日本人も多いが、弁護士が憲法を歌い広めるという若々しいアイディアに感銘を受けた。
「軍事裁判 割り込んで来て 判事の良心 繰り下がる」
10月28日、自民党新憲法草案が決定された。新聞で全文を読んで、自衛軍(9条の2)のついでに「軍事に関する裁判」を行うための「軍事裁判所」も新設する(76条3項)という点に最もショックを受けた。おかげで、私が条文を扇子にしたほど愛している現行76条3項「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。」が4項に繰り下げられてしまっている。それにしても「軍事裁判所」は軍法会議と同じものかどうか。「軍事に関する裁判」はもう少し広くも読めるが。
「職員録では 裁判官は みんな庁舎に 住んでいる」
毎年11月、「裁判所・法務省・検察庁 職員録」が法曹会から発行される。編集に先立って、記載する住所の希望を尋ねられるが、最近は自宅を載せるのは少数派で、裁判所の所在地にする裁判官が圧倒的だ。そのため、例えば東京地裁の頁を開くと、住所欄に「千代田区霞が関1−1−4」がずらっと並んでいて、本当に圧倒される。これならば、省略した方が頁数の大幅な節減になって、価格も下げられそうだが。たぶん部外者は購入できない筈なので、自宅を書いても問題ないように思うけど、なんでだろう。
「ネットワークの 模擬裁判は 裁判長が 犯人だ」
今年10月15日、去年に引き続いて、練馬区の裁判員制度模擬裁判に参加した。昨年は陪席裁判官を務めたが、今年は裁判長。裁く事件は、昨年11月27日の日本裁判官ネットワーク総会企画で演じた「京都恋敵殺人未遂事件」。その時のビデオを見て合議したのだが、妙なことになった。実は、その時の証人(実行犯)役は、誰あろう私が演じていたので、「なんで犯人が裁判長をやっているのか」という話になってしまった。私の合議体は、そもそも刑罰は何のためかという議論を始める裁判員がいて難航したが、面白かった。
「地家裁所長の 写真でさえも 裁判員への 広報だ」
弁護士任官して当初の9か月間、東京高裁第23民事部の陪席としてご一緒させていただいた西島幸夫判事が最近、松江地家裁所長に就任された。裁判所のホームページには所長の写真入りの紹介コーナーがあるので覗いて見ると、「裁判員 あなたがささえる たしかな司法」と書かれた垂れ幕が懸かる庁舎の前に立って写っていた。感銘を受けたと申し上げたら、さらに他の例を紹介された。石塚章夫新潟家裁所長は、新潟まつりの日に浴衣を着て、裁判員制度のPRうちわを持って立っている。ぜひ皆さんもご覧を。
「並の判事は 事件を落とす 噺を落とすは 園尾さん」
11月19日(土)、官舎の近くの本郷キャンパスで開催された「東大ホームカミングデイ」に参加した。私の最大のお目当ては、OBによる「東大落語会寄席」。知る人ぞ知る、裁判官きっての噺家、園尾隆司判事(最高裁総務局長)の落語である。高座名は「北帰里(きたきり)スズメ」。新作裁判落語「ずっこけ裁き」で満場の喝采を浴びた。民事担当裁判官が突然刑事事件を担当したらどう違うか、という面白い噺だった。枕は、新橋ガード下の赤提灯の帰り道の悲喜劇。私のような弁護士任官者ものけぞる、愉快な高座だった。
「司法界には 遅れたけれど 将棋世界も 開かれた」
11月6日、注目の将棋「プロ編入試験対局」が終わった。瀬川晶司アマは、3勝2敗で合格し、即日、プロ棋士4段となった。元々、奨励会3段まで昇段し、年齢制限で退会した方なので、アマになってもプロに連勝するのは当然あり得る事態だった。しかし、それでもプロになる道はこれまで閉ざされて来た。これは、司法修習生から判事補にならず弁護士になった者は判事になれないという、キャリア裁判官制度の運用に似ている。しかし、こちらは一足先に弁護士任官の道が開けた。私も負けずに新風を吹き込みたい。
「棋士をうらやむ 判事もたまに 自戦解説 してみたい」
将棋ファンの私は、法律家以外で何になりたかったかと尋ねられたら、迷わずプロ棋士と答える。小学生から続けていれば、同い年の谷川浩司永世名人と指せたかも知れないのに。私が棋士をうらやましいと思うのは、対局中は裁判官と同じく孤独に考えるが、決着後は自由に解説できること。裁判官は自分の判決を解説することすらままならない。そう思っていたら、私が東京高裁で去年9月に担当した「プロ野球選手会抗告事件」決定が、「労働法律旬報」最新号にて掲載・解説された。ぜひ皆様ご一読を。
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