● 弁護士任官どどいつ(7)
竹内浩史(東京地裁) 
4月のどどいつを2句。

「なんで私が テレビに映る 代わりに判決 読んだだけ」

 裁判官の転勤は4月が多い。判決を書くのは結審時の裁判官なのだが、言渡しが転勤後になった場合は、後任の裁判官が代読する事になっている。社会の注目を集める判決の場合でも、法廷撮影で映るのは、実は判決に全く関与していない裁判官という事も少なくない。しかし、最近、福岡高裁の裁判長が、新潟家裁所長に転出した後、福岡高裁判事職務代行として自ら判決を言い渡した例があった。国民に担当裁判官の顔が見える法廷という点で、良い事だったと思う。

「高裁・地裁の 異動の日には 八十八か所 巡りする」

 4月1日、私も新しい辞令を戴き、東京高裁から東京地裁の民事部に異動した。といっても、同じ建物の下の階へ移るだけなのだが、各裁判官室へ挨拶回りをするとなると、数が多過ぎる。東京高裁は民事と刑事、それに新設の知財高裁とで合計36か部、東京地裁は民事だけで50か部、これに長官や所長を加えると、ちょうど88か所を巡る勘定になる。しかし、裁判官の会議で転入裁判官が挨拶をする機会もあるのならば、転入先の各部への挨拶は省略して良かったのではないか。あとでそう思った。

5月のどどいつを2句。

「将棋と相撲を いつでも見れる 日本に生まれて 良かったな」

 今年のゴールデンウイークはゆっくりできた。4月に地裁に移ったばかりなので、自分で結審して判決を書かなければならない事件がまだ無かったから。久しぶりに趣味の世界に浸れた。4日は朝日新聞社のオープン将棋選手権決勝の大盤解説会に行った。8日は両国国技館で大相撲夏場所初日を観戦。どちらも日本の国技と呼ばれるにふさわしい優れた伝統文化だ。愛国心を巡る論争が盛んだが、私がこの国に生まれて良かったと思うのは、文化に触れる時である。

「義務が私は もひとつ増えた 憲法尊重 擁護義務」

 弁護士から裁判官になって嬉しかったのは、新たに憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負った事である。憲法記念日の集会にも参加するようにしてきた。憲法改正の議論が盛んだが、仮に改正案が具体化し、国民投票(憲法96条)にかかった場合、裁判官は賛否の意見を表明する事ができるのだろうか。裁判所法52条1号が禁止している積極的政治運動や、法律案に対する賛否の表明とは、次元が異なる問題のように思われる。こういった問題も、忘れずに論じておいてほしいと思う。

6月の予告編どどいつ。

「市民と判事が 議論を深め こうして司法は  シンポする」

 司法に深い関心を寄せる市民の皆さんにぜひお知らせしたい企画がある。6月24日(金)に大阪市で開催される日弁連「司法シンポジウム」。今年のテーマは「21世紀の裁判所のあり方―市民が求める裁判官、裁判所」。午前の分科会に続き、午後1時からは大阪市中央公会堂でパネルディスカッション「みんなの裁判所」。パネリストは、サブリナ・マッケナー(ハワイ州裁判官)、夏樹静子、桂文珍、園尾隆司(最高裁事務総局総務局長)、工藤涼二(弁護士任官者)他。参加無料。主催は日弁連(電話03−3580−9841)。

(平成17年5月)