ベストセラー「バカの壁」(養老孟司著)には,刺激的で興味深い発想が散りばめられている。その一つ。情報をxとし,そこからの反応(判断)をyとすると,y=axという一次方程式が成り立つ,yは,その人のもつaという係数によって違ってくる,aはいわば「現実の重み」ともいうべきものだ,と養老先生はいう。
裁判官は証拠を調べ記録を読む。合議の場合は,3人がそれぞれ同じ証人を聞き,同じ記録を検討する。ところが,結論はといえば,時に,2人が有罪,1人が無罪ということもある。もちろん,そういう場合は,何日もかけて,時には激しい議論も交えて,粘り強く討議するのであるが,それでも,どうしても結論が一致しない場合もある。
「現実の重み」をその人の持つ知識量(常識)や人生経験と置き換えることもできよう。裁判官によって現実の重み(a)が違っているとき,同じ証拠(x)を用いても,そこからの判断(y)が違ってくることがあるのだ。その違いを議論してもみ合うのが,合議による裁判の良さである。
裁判員制度は,市民から抽出される裁判員の市民感覚,社会経験という新しい係数(a)を職業裁判官の持っている係数(a)とすり合わせ,より信頼性の高い結論に至ろうとする制度といえるのである。
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