● 悪魔の法典(26)
チェックメイト
第26条「裁判の手続法の中で最も重要な規定は、裁判所の管轄であるが、学者にはなかなか理解されない。管轄の規定をせっかく裁判所規則から法律事項に格上げさせた場合でも、また同様である。」(家事事件手続法)

 私は学生時代から毎年必ずコンパクトサイズの六法を携帯用に買い求めていたが、数年前にやめた。重大な欠陥を発見したからだ。家裁実務には欠かせない家事審判等の管轄の規定が全く掲載されていないのである。
 もっとも、これは立法者側にも問題があった。本来は法律で定めるべき審判等の管轄が、家事審判法には書かれず、家事審判規則という最高裁規則の段階で初めて規定されていたからだ。最近、全面改正されて家事事件手続法に代わり、ようやく管轄の規定は規則から法律に格上げされたのである。
 そこで今年こそはコンパクト六法を買おうと、書店で手に取った。しかし呆れたことに、せっかく法律に格上げされた管轄の条文が、そこだけご丁寧に「省略」となっていて、また買う気を無くした。監修者が実務を知らない大学教授だったりするから、こんな馬鹿げたことになるのだろう。
 もっとも、同じ土地管轄でも、ある市町村をどこの地家裁支部や簡裁が管轄するかという管轄区域の規定に関しては、弁護士は関心が強いが、裁判官は疎い。これは両者が使う手帳の巻末資料を比べれば一目瞭然だ。弁護士はどの裁判所に申し立てるかを常に検討しなければならないから、完璧な管轄区域表が載っている。しかし、裁判官はとにかく自分の所に来た事件を裁けばよい。管轄があることは書記官が確認して受け付けている。
 したがって、裁判官用の手帳には裁判所本庁の住所と電話番号が載っているだけだ。その代わり、国家公務員の共済や福利厚生の記事が妙に充実している。

(H23.12.1)