● 悪魔の法典(18)
チェックメイト
第18条「死刑判決は、刑務官に対して法務大臣が死刑執行を命令することを許可する旨の、裁判官が裁判員と共に付与する令状である。」(刑事訴訟法475・476条)

日本では、死刑判決が出たからといって、どこかの国のように直ちに法廷の外に引き出されて執行されるといったシステムにはなっていない。刑事訴訟法の規定は次のようになっている。
475条1項「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」
同条2項「前項の命令は、判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」
476条「法務大臣が死刑の執行を命じたときは、五日以内にその執行をしなければならない。」

ついでに付け加えれば、上司を通じて死刑の執行を命じられた刑務官は、おそらく一日以内の短時間に執行の現場に立会をしなければならないシステムになっているであろう。
逆にさかのぼれば、これまでは死刑判決を出すのに、審理期間の制限は事実上も無かった。よほど極端な引き延ばしの事例を除けば、死刑事件の審理を慎重にして数年を費やしたからといって、非難されることは少なかったように思う。
このように、裁量が狭くなるのに比例して、考慮期間が短くなるのは、巧妙なシステム設計とも思われる。
しかし、裁判員裁判になって、この点は劇的に変わるだろう。一週間程度の公判で死刑判決を宣告する例も出て来るに違いない。不条理に思われるのは、最初に短期間で死刑の難しい判断を迫られるくじ引きに当たった市民と、最後に執行という形で何の恨みも無いのに殺人の実行行為を公務として命じられる刑務官の立場である。
しかし、死刑の判決と執行が遅延すれば、今度は遺族が抗議し泣き叫ぶ。それならば、昔の時代劇によく出て来たあのシステムの方が、人道的だったのではないかと思うこともある。幕府が遺族に与えた「仇討ち御赦免状」である。


(平成22年7月)