● 悪魔の法典(16)
チェックメイト
第16条「裁判官は担当事件を独立して判断するものであるから、他の裁判官がその判断を拘束することができるのは、その事件の上級審として判断を示す場合だけである。ただし、情報提供及び申し合わせが行われる場合がある。」(裁判所法4条・民事訴訟法325条3項)

 裁判官の独立とは、突き詰めれば、個々の裁判官に配点された裁判は、その裁判官が独りで考えて判断することを保障しなければならない、という意味である。上級審の裁判官であろうと、また長官・所長であろうと、他の裁判官が口出しすることは厳禁である。

 上級審の判断に拘束されるというのも、厳密にいえば、事件の差戻審を担当する場合だけである。他の同種事件の判例に従うかどうかの判断は、裁判官の独立の範疇であろう。

 もっとも、実際には、上級審が個別事案で判例を作る機会に乏しい分野等で、下級審の裁判官たちに、こういう考え方があると知らせたい場合もある。これを「情報提供」と呼んでいる。最近では、認知調停の活用について、最高裁当局が注意を喚起した場面があった。裁判官による共同研究の発表も、これに近い実質を伴う場合があるかも知れない。

 また、同じ裁判所に属する裁判官たちが、主に形式面で横並びの判断をするため、内部的に「申し合わせ」をすることがある。例えば、当地では証人の日当はいくらと決めよう、管財人の報酬の基準はこのようにしよう、といった類である。これは、あまり不公平が生じないようにするためであるから、個別の事情を考慮して基準と異なる判断をすることは、やはり自由である。


(平成22年2月)