● かねやす

瑞祥

 東京都文京区本郷に「かねやす」という雑貨屋さんがある。この地のこの名の店は、もう約400年も続いているらしい。江戸時代享保年間、防災対策のために、江戸城周囲には、土蔵造りや塗屋にすることが命じられたという。そうした家々が江戸城から北へ本郷の「かねやす」まで続き、そこよりも北側は、従来の建物であったため、「かねやす」を挟んで風景が変わったようである。そのため、「本郷も かねやすまでは 江戸のうち」と川柳に唄われたようである。http://www.city.bunkyo.lg.jp/visitor_kanko_shiseki_other_kaneyasu.html

 ところで、この「かねやす」は、もともとは「兼安」だったらしい。店のところにある説明書には、この店名の由緒が書かれている。当時、芝神明の「兼安」と本郷の「兼安」があり、元祖争いがおきたため、当時の江戸町奉行大岡越前が、芝神明のほうが「兼安」、本郷のほうが「かねやす」と粋な裁きをしたという。

 現代に置き換えると、知的財産分野についての名判決というところかもしれない。ただ、現行法では、裁判官の下す判決は、知的財産分野に限らず、どの分野でも要件効果が決められていることから、「粋な」判決といっても限界がある。知恵をめぐらせて、紛争解決に一番いい方法となると、判決よりは、和解や、調停に付しての17条決定といったものになることが多い。大岡越前のような権限があれば、ストレートに紛争解決ができるのに、と羨ましく思うことも多いのが正直なところであるが、そうした権限には濫用の危険も当然指摘されるであろう。かなわぬ夢というべきであろうか。



(平成23年12月)