● うわなりうち(後妻打ち)

浅見宣義(東京高等裁判所)

NHKのタイムスクープという番組を見ていたら、日本古来の「うわなりうち(後妻打ち)」という風習を取り上げていました。この番組を見るまでは、そのような風習があったとの知識がありませんでしたので、とても興味深いものでした。「うわなりうち(後妻打ち)」とは、夫が後妻と結婚するときに、先妻が後妻の家を襲う風習のようです。時間的制限もあることから、前婚中に夫と後妻が関係をもったことが推認できる場合に限られるようで、先妻が後妻の家を襲うことで、先妻のやり場のない怒りを発散させることを許す意味が大きいように思いました。「うわなりうち(後妻打ち)」を、ブログで取り上げたものがあったので紹介します。ウィキペディアにも出てきます。

法律の世界では、不貞の相手方に損害賠償請求ができるのか昔から争いがあります。否定説もあるのですが、肯定説が判例・通説だと思います。私のように民事訴訟事件を担当している人間からすると、とてもポピュラーな請求類型です。家庭裁判所の人事訴訟事件でも、離婚請求に併合して見られますし、家事・民事調停でもよく見かけます。フランスでは、同種請求はできないといいますが、日本古来からの「うわなりうち(後妻打ち)」をみていると、日本ではやはり損害賠償請求を認めるべき土壌があるように感じました。

ところで、この話を同僚の裁判官としていたところ、「でも最も悪いのは、先妻を捨てて、後妻に走った夫であるのにもかかわらず、夫に文句を言えない時代背景から、「うわなりうち(後妻打ち)」という形で女性同士の争いになったのではないか。現代では、妻から夫に文句が言えるし、妻から夫に離婚請求や損害賠償請求もできるので、「うわなりうち(後妻打ち)」の風習と、不貞の相手方に損害賠償請求ができるのかの問題は切り離すべきではないか」という意見もありました。なるほどと思うところもあるのですが、多くの事件をみていると、夫も後妻も許せない、夫以上に後妻を許せないという事件も多いように思われ、それが一切法的保護に値しないとするには、制度が変わり恋愛観も変わっているのですが、日本ではまだ無理のように思うところです。これは、妻が不貞をして、男性同士の争いになる場合も同じですね。皆さんは、どうお考えでしょうか。


(H23、8,1)